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ヨーロッパ勢の活躍が目立った今年のブリーダーズC

  • 2013年11月06日(水) 12時00分
 今年で30回目という節目を迎えたアメリカ競馬の祭典ブリーダーズCが、11月1日(金曜日)、2日(土曜日)の両日、カリフォルニア州サンタアニタ競馬場で開催された。

 両日ともにカリフォルニアらしい青空が広がり、入場人員は金曜日が前年比3.5%アップの35833人、土曜日が前年比6.6%アップの58795人という、大観衆を集めての開催となった。

 更に、2日にわたって開催された全14競走の合計売上げは、前年比6.8%アップの1億3550万ドルに到達した。昨年は、ハリケーン「サンディ」の影響で東海岸の各州で交通が寸断され、競馬を楽しむ環境になかった市民が多数いたことを考えると、この程度のアップは「当然」との見方がある一方、ジュヴェナイルスプリントの開催がなくなりレース数が1つ減ったことを鑑みれば、今年の売り上げは「上々」とする声もある。主催者のブリーダーズC協会は、昨年は15競走で合計162頭だった出走馬が、今年は14競走で158頭と、1レース辺りの出走頭数が前年の10.8頭から11.3頭に増大したことが、売り上げアップに貢献したと見ている。

 好天に恵まれたゆえ、ダートがFast、芝がFirmという、いずれも最も硬い馬場状態で競馬が行なわれた中、関係者やファンの間で1つのキーワ−ドとなったのが、「スピードバイアス」という言葉だった。前に行った馬が止まらず、とにもかくにも先んじた馬が勝ちという、スピード優先の決着が続いたのである。

 その典型的な例となったのが、ダートのG1としては最初に施行された、G1BCダートマイル(d8F)だった。大外枠から強引にハナを奪った2番人気(4.8倍)のゴールデンセンツ(牡3、父イントゥミスチフ)が、オープニングクオーター=22秒12、半マイル通過44秒75という猛烈なラップを刻みながら、最後まで粘って2.3/4馬身差の逃げ切り勝ちを果したのだ。最後の1Fは13秒50もかかっているから、前が止まらないというよりは、2番手以下も道中なし崩しに脚を使わされ、直線では余力が残っていなかったと見る方が妥当かもしれない。

 いずれにしても、「これは前に行かなくては勝機がない」と思った陣営が多かったようで、以降、10F未満のレースはすべからく、オープニングクオーターが22秒台という競馬が続いた。

 更に、G1シューメーカーマイル(芝8F)勝ち馬オブヴィアスリー(セン5、父ショワジール)が逃げ、G1シャドウェルターフマイル(AW8.5F)勝ち馬シルヴァーマックス(牡4、父バッジオヴシルヴァー)が突ついた芝8Fのマイルでは、オープニングクオーターで22秒を切る21秒94を記録。これには、欧州から遠征したG1・2勝馬オリンピックグローリー(牡3、父ショワジール)が面食らい、全く自分の競馬が出来ずに9着に大敗したのも、頷けるところだ。

 スタート後しばらくヒルサイドトラックを駆け降りる芝6.5Fのターフスプリントになると21秒47。そして、スピード自慢の集まるダート6Fのスプリントではなんと21秒34という、いかにもアメリカ競馬らしい激烈な先行争いが展開されることになった。

 そんな中、乗り役に逆の指示を出して勝利に結び付けたのが、ニューイヤーズデイでG1ジュヴェナイル(d8.5F)を制したボブ・バファート調教師だ。騎乗するマーティン・ガルシアにレース前、「スピードバイアスと騒ぐ声に耳を傾けるな。馬場よりも大事なのは馬だ。この馬の競馬をしろ」と言って送り出し、前半後方に控えてギリギリまで追い出しを我慢する競馬で差し切り勝ちを収めたのだ。さすがは、この後スプリントもシークレットサークル(牡4、父エディントン)でG1スプリント(d6F)制してBC通算勝ち星を10とした伯楽B・バファートである。

 「スピードバイアス」とともに、2013年のブリーダーズCにおけるキーワードとなったのが、「ヨーロッパ勢の活躍」だった。

 前述したように、マイルの期待馬オリンピックグローリーは敗れたものの、それ以外の芝のレースは、出走馬のなかったターフスプリント以外はことごとく、ヨーロッパ勢が制したのだ。しかも、ジュヴェナイルターフ、フィリー&メアターフ、ターフの3レースは2着もヨーロパ調教馬の1・2フィニッシュだった。

 これも前述したように、馬場が非常に硬く、スピード優先の競馬になるというのは、ヨーロッパ調教馬にとって有利な競走条件では決してない。なおかつ、日中の気温は金曜日が摂氏30度、土曜日も27度まで上がり、これも既に冬に突入している欧州から来た馬たちには、むしろ厳しい気象条件だった。

 それにも関わらず、だ。

 芝のレースだけでなく、開幕戦となったG1BCマラソン(d14F)でも英国調教馬ロンドンブリッジ(牡3、父アーチ)が勝利を収め、メイン競走のG1BCクラシック(d10f)でも愛国調教馬デクラレーションオヴウォー(牡4、父ウォーフロント)が勝ち馬から鼻+頭差の3着に健闘している。

 軽々に出して良い結論ではないが、ひょっとすると将来振り返った時、2013年のブリーダーズCは、北米調教馬の「地盤沈下」が表れはじめた年として記憶されているかもしれない。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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