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◆三冠すべてを2番人気で勝利

　競馬のクラシックレースとは、格式の高い3歳馬の5大レースのことで、桜花賞、皐月賞、オークス(優駿牝馬)、日本ダービー(東京優駿)、菊花賞がそれにあたる。競馬発祥国イギリスのレース体系にならったもので、競馬は毎年、このクラシックレースに向けて盛り上がっていく。

　皐月賞、日本ダービー、菊花賞を勝った馬を特別に「三冠馬」と呼んでたたえるが、三冠馬となるのは至難のわざ。およそ80年の歴史のなかで7頭しか誕生していない。

　残りの桜花賞とオークスは牝馬しか出走できない。したがって本来、牝馬三冠なるものはないが、近年、日本では秋華賞(旧エリザベス女王杯)が加えられ、この3つを牝馬三冠と称している。

　1986年にメジロラモーヌが牝馬三冠馬に輝いて以降、長く誕生していなかったが、2003年、17年ぶりに三冠を手にする牝馬が現れる。それがスティルインラブだった。

　2002年秋のデビュー戦、翌年の紅梅Sと楽に2連勝したが、続く桜花賞トライアルのチューリップ賞は、勝負どころで行き場を失って2着。このため本番の桜花賞は、名牝エアグルーヴ(96年のオークス馬)の仔アドマイヤグルーヴに次ぐ2番人気に甘んじることになった。しかし、前走の轍を踏むまいと、今度は早めに動く積極策。それが功を奏して2着に1馬身1/2の差をつけて勝利した。

　ところが、二冠目のオークスはまたも2番人気。1番人気は桜花賞と同じくアドマイヤグルーヴだった。母、祖母ともにオークス馬で、勝てば母系3代にわたるオークス馬の誕生となる。まばゆいばかりの良血馬で、むろん、オークスを勝つ血統的なスタミナの裏づけも十分にあった。


　競馬マスコミはこぞって母系3代にスポットライトを当て、逆転は可能と書き立てた。だが、終わってみれば2着に1馬身1/4差をつけるスティルインラブの快勝劇。アドマイヤグルーヴは7着に敗れ去っていた。

　牝馬三冠馬にリーチをかけたスティルインラブ。ところが秋初戦、秋華賞トライアルのローズSで、これまで歯牙にもかけなかったアドマイヤグルーヴに苦杯を喫してしまう。すると、本番の秋華賞はまたも屈辱の2番人気。しかし、本番になるとレースぶりが一変するのがスティルインラブの真骨頂。

　アドマイヤグルーヴの猛追を振り切り、17年ぶり、史上2頭目の牝馬三冠を達成した。勝っても勝っても、1番人気に支持されない屈辱を受けながら、すべて跳ね返して牝馬三冠馬に輝いたのである。

　3年後、スティルインラブは生まれ故郷の下河辺牧場に戻り、母として前途洋々たるスタートを切った。ところが、翌2007年の夏、重い腸閉塞に見舞われる。手術の甲斐もなく症状は悪化するばかり。1週間後の8月2日、7歳の若さで夭折した。

　残した産駒は牡馬の1頭だけ。牝馬三冠馬の血が、あっけなく絶えてしまった。美人薄命。佳人薄命。英語にも「神に愛されたものは若く死ぬ」ということわざがある。スティルインラブもその名のとおり、神に愛され続けていたのかもしれない。(吉沢譲治)

◆レース詳細
2003年10月19日
第8回 秋華賞(GI)　京都/芝右 2000m/天候:晴/芝:良

 1着 スティルインラブ　　 牝3 55　　幸英明　　1:59.1
 2着 アドマイヤグルーヴ　 牝3 55　　武　豊　　3/4
 3着 ヤマカツリリー　　　 牝3 55　　安藤勝己　クビ

◆競走馬のプロフィール
スティルインラブ(牝3)
父：サンデーサイレンス
母：ブラダマンテ
騎　手：幸　英明
調教師：松元　省一(栗東)
馬　主：ノースヒルズマネジメント
生産牧場：下河辺牧場

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