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オールウェザートラックが直面する大きな岐路とは

  • 2014年03月05日(水) 12時00分


◆デルマー競馬場は来年新たに敷設する素材を旧来のダートに戻すことを発表

今世紀に入って世界各地で急速に普及したオールウェザートラックが、ここへきて大きな曲がり角を迎えている。

 2月半ばに、2007年にメイントラックに敷設したポリトラックの使用を今年一杯で終了し、来年新たに敷設する素材を旧来のダートに戻すことを発表したのは、北米カリフォルニア州のデルマー競馬場だった。

 カリフォルニア州では、2006年にオールウェザー化したサンタアニタ競馬場が、排水に問題があるとして2010年にダートに回帰。オールウェザーでの競馬を続けていたハリウッドパークが昨年一杯で閉鎖になったため、デルマーがダートに戻ると、カリフォルニア州でメイントラックがオールウェザーの競馬場は、サンフランシスコ近郊のゴールデンゲートだけになってしまうことになる。

 各地で実用されるようになると、オールウェザーと標榜しているにも関わらず、敷設された地域の気候によって路面の状態に大きな変化が見られることが判ってきたのが、人工素材だ。一口にオールウェザートラックと言っても、その素材には複数のブランドがあるが、どのブランドも構成物質には多少なりともワックスやゴムが含有されている。そのワックスやゴムが、温暖な亜熱帯的気候に晒されると溶けてしまい、本来あるべきものとは異なる状態に路面が変化してしまうのだ。あるいは、1日の寒暖差が激しい地域だと、気温の低い朝と、気温が高くなる日中で、馬場状態が変わってしまうという弊害も発生していた。つまりは、当初の想定よりもメンテナンスが難しいことが明らかになったことが、カリフォルニア州におけるダート回帰の主たる要因であった。

 そういう点で、地域には気候が寒冷な場所が多く、寒暖差もそれほど激しくないため、アメリカに比べると順調に運用されていると言われていたのが、ヨーロッパにおけるオールウェザートラックだった。

 ところが、そのヨーロッパでも遂に、使用を継続すべきか否か、ターニングポイントに立たされるオールウェザートラックが出て来たのだ。今、その安全性がおおいに問題視されているのは、イギリスのウルヴァーハンプトン競馬場である。

 ここで競馬を使った馬に故障が多いと、関係者の間で噂が広まり始めたのは、昨年の秋頃からだった。12月に入ると、トップトレーナーの一人であるジョン・ゴスデンが、ウルヴァーハンプトン競馬場を所有するアリーナレーシング社に対し、馬場が相当に深刻な状態にあることを認識し、早急に改善するよう求める事態となった。

 更に、調教師会が聞き取り調査を行なうと、多くの調教師から、ウルヴァーハンプトンの馬場は場所によって状態が一定ではないとの声が寄せられた。同時に、ウルヴァーハンプトンにおけるレース後に、競走生命を失うほどの故障が判明した例が、複数報告されたのである。

 こうなると、そんな馬場で管理馬を走らせるわけにはいかないと、ウルヴァーハンプトン開催をボイコットする調教師が続出。レースの施行に支障を来たす事態となった。

 現在ウルヴァーハンプトンで使用されている素材は、2004年に敷設されたポリトラックだ。一般的には、7年から10年と言われているのが人工素材の耐用年数で、ウルヴァーハンプトンの場合も、状態悪化の主要因は素材の老朽化にあった。ウルヴァーハンプトン競馬場は、4月18日のグッドフライデーをもって今季のオールウェザーシーズンが終了するのを機に、素材を新しいものと入れ替えることを決定。当面は、現在使われている路面の敷設に携わったマーティンコリンズ・エンタープライズ社に対し、部分改修を指示することで、事態の収拾を図ろうとした。

 ところが、「今さらウチを頼られても」と、マーティンコリンズがウルヴァ−ハンプトンに対して反旗を翻したことで、事態は一層複雑化することになった。

 マーティンコリンズ社によると、ウルヴァーハンプトンは、敷設当時にマーティンコリンズ社が示唆したメンテナンスの方法を全く無視。独自の判断で、他社が製造した様々な素材を追加投入することを繰り返したため、現在ウルヴァーハンプトンに敷設されている素材はもはや、マーティンコリンズ社のポリトラック素材とは全く異なるものに変節していると主張する。

「何か少しでも問題が発生した時には、すぐに連絡は欲しい、急行して問題の解決にあたるからと言ってきたのに、何の連絡も寄こさず、勝手に素材をいじったのはウルヴァーハンプトンだ。当社が指示したメンテナンス方法をしっかりと守っているリングフィールド競馬場は、敷設から11年が経過した現在も、安全かつ公正な競馬をオールウェザートラックで行なっている。のっぴきならない状態となった今になって、お前のところが敷設した馬場をなんとかしろと言われても、弊社としては当惑するばかりである」と、マーティンコリンズ社がウルヴァ−ハンプトン競馬場を糾弾する事態となっているのである。

 大雨でも競馬が開催でき、厳冬期でも馬場が硬くならず、馬の故障が少ないという、理想の馬場としてお目見えしたオールウェザートラックが、大きな岐路に立っていることは間違いなさそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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