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ネコパンチ、“誘導馬デビュー”に向けて励む日々

  • 2014年03月25日(火) 18時00分
第二のストーリー



◆東京競馬場で暮らし始めたネコパンチ

 昨年11月20日にターフに別れを告げ、12月12日に誘導馬を目指して新天地・東京競馬場に移動をしたネコパンチ(セン8)。同競馬場の看板誘導馬サクセスブロッケン(セン9)のfacebookにも度々紹介されて、その元気な様子は伝わってはいたが、実際どのように日々を過ごしているのかをこの目で確かめたくなり、東京競馬場にネコパンチを訪ねた。

 3月半ば、静寂に包まれた競馬開催のない平日の東京競馬場。その厩舎地区で出迎えてくれたのは、ネコパンチと担当の岩本浩さんだ。

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 馬房の中のネコパンチは、のんびりした表情をしていた。写真撮影のために出てきた洗い場で、それは静かに立っている。カメラを見つめる瞳が穏やかで、こちらの気持ちも和んだ。現役時代、厩舎周りを運動中に立ち上がったり、洗い場でバタバタ飛び跳ねているシーンを何度も目撃していたので、ヤンチャなイメージが強かったのだが、以前の荒々しいイメージが皆無だった。

「とても良い馬ですよ」

 ネコパンチの印象を伺った時の、岩本さんの第一声がこの言葉だった。そして「ネコさん」と呼んでいると、少し照れくさそうに教えてくれた。

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▲ネコパンチと担当の岩本浩さん


「人懐っこくて大人しいです。環境に慣れるのは早かったですし、賢くて物覚えも良いですね。乗っていてすごく柔らかさも感じます。他の馬に比べて鉄が減らないと、装蹄師さんは言っていました。手先が軽くて、スッ、スッと歩くからかもしれませんね」

◆誘導馬デビューへ向けての訓練

 岩本さんに褒められっぱなしのネコパンチは、自慢気そうな表情を浮かべてこちらの会話を聞いているようにも見える。

 現在は、開催日以外に場内を歩いて訓練をしている。

「パドックに行った時に、たまたまレース映像が流れたんですよね。それでスイッチが入ってしまったようで、パドックから繋がる地下馬道では走り出しそうになっていました」(岩本さん)

 昨年まで東京競馬場で誘導馬として活躍していたユキノサンロイヤル(セン17)が余生を過ごす乗馬クラブアイルでも、似たような話を聞いた。町内に流れるお知らせ放送が流れると、急にスイッチが入ってジタバタし始めたというのだ。アイルの代表・米谷朋子さんが「競馬場の場内放送と同じ響きだったのかもしれないですね」と話していたように、競走馬時代の記憶はそう簡単に消えるものではないのだろう。

▼先輩誘導馬ユキノサンロイヤルの今→コチラから

 普段は大人しいネコパンチだが、競馬開催日と非開催日では、馬の雰囲気も違うという。

「賢い馬なので、余計に思い出すのかなとも思います。長い年月、競走馬として走ってきた馬ですから、それが抜けるのにも時間がかかってもおかしくはないですよね」(岩本さん)

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 いつファンの前に姿を見せるのかも、気になるところだ。

「去勢をしてさほど時間が経っていないこともあり、筋肉が落ちているんですよね。まず体を戻すのと、もう少し環境に慣らしていくのを重点にトレーニングしていきます。体力がついてくれば、トレーニングの内容を濃くしていく予定です。ファンの前に登場するのは、あくまでこれからの進捗状況次第ですね。ですからいつの開催からとは、まだわからない段階です」

 競馬場正門を入ってすぐの「ローズガーデン」に展示放牧というのも、敏感な馬たちにとって簡単なことではないらしい。

「周りに馬がいないですから、不安になって走り回ったり、尻っぱねをするケースもあります。落ち着いていて動じない馬ではないと難しいですね」(岩本さん)

 となると、競走馬生活の長かったネコパンチが、場内の音が良く聞こえるローズガーデンに登場するのは、さらに至難の技なのか? とも思ってしまう。だがこの後、ネコパンチがどのような変化を遂げるのかは誰にもわからない。賢く、物覚えの早いネコさんが、誘導馬として成長し、どのような形でファンの前に姿を現すのかを楽しみに待ちたいと思う。

 現役時代に担当だった星野忍厩舎の及川雅章厩務員は、東京競馬に担当馬を出走させるたびにネコパンチに会いに行っている。星野忍調教師に、今回の取材時の様子を伝えると「元気か。そうか良かった」と満面の笑みになった。

▼東京競馬場へ出発時のネコパンチ、星野調教師・及川厩務員に見送られて→コチラから

 熱心なファンから、手紙と一緒に東京競馬場に送られてきたという白いお守りが、ネコさんの無口に縫い付けられていた。そして現在は、岩本さんの愛情を一心に受けながら、日々トレーニングが続けられてる。

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▲ファンからの白いお守りを身につけて


 現役を退いた今もなお、多くの人の心を掴んで離さない不思議な魅力を持つネコパンチ。これからも無事に元気に健康に、始まったばかりの誘導馬としての第二の馬生を歩んでいってほしい。これが彼を愛する人々の切なる願いではないだろうか。

(取材・文・撮影:佐々木祥恵)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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