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日本馬勝利の裏で存在意義を問われたオールウェザー素材の「タペタ」

  • 2014年04月02日(水) 12時00分


◆シェイク・ハムダンが地元紙ガルフニュースのインタビューを通じて警鐘を鳴らした「タペタ」

 今年のドバイワールドC開催を通じて、折りに触れてその存在意義を問われる局面があったのが、メイダン競馬場の内廻リコースに敷設された、オールウェザー素材の「タペタ」だった。

 2010年、メイダン競馬場の開設とともにお披露目されたのが、「タペタ」というブランドのオールウェザートラックだった。

 その直前、アメリカでは08年・09年と、年間チャンピオン決定戦であるブリーダーズCが、当時はオールウェザートラックをメインコースとしていたサンタアニタで開催され、アメリカのみならずヨーロッパも含めて、オールウェザートラックが次世代の路面として急速に普及していた時期であった。

 だが、あれから丸4年が経過し、状況は大きく様変わりしている。

 サンタアニタが、基盤部分の排水に問題があるとして、10年12月の開催から旧来のダートに回帰。オールウェザートラックでの競馬を続けていたハリウッドパークは13年一杯で閉鎖になり、デルマーもまた、今年の競馬が終わると現在のオールウェザー素材を廃棄してダートに戻すことを決めている。すなわち来年以降、カリフォルニア州でオールウェザーをメインコースとするのは、ゴールデンゲートのみとなることが決まっているのだ。

 第1回優勝馬のシガーを筆頭に、北米ダート路線の大物が参戦することで知られていたのが、ナドアルシバのダートで開催されていた頃のドバイワールドCだったが、メイダンのタペタに舞台が変わると事態は一変。今年も、ゲイムオンデュード、ムーチョマッチョマン、ウィルテイクチャージといったこの路線の一線級が回避し、G1ドバイワールドC(AW2000m)の出走メンバーに北米調教馬の姿がなく、ワールドCナイト全体を見渡しても北米調教馬はわずかに3頭。このうち2頭は、G1ドバイシーマクラシック(芝2410m)に出走したトワイライトエクスプレス、G1アルクオーツスプリント(芝1000m)に出走したベルリーノディタイガーだったから、オールウェザーのレースに挑んだ北米調教馬は、G1ゴールデンシャヒーン(AW1200m)に出走したジーブロス唯1頭だったのである。

 そんな中、タペタに対する批判が身内から上がったのが、ワールドCナイトを2日後に控えた27日(木曜日)のことだった。シェイク・モハメドの兄で、競馬と生産の組織シャドウェルを営むシェイク・ハムダンが、「出走全馬が能力を100%発揮出来ないタペタは、国際競走の路面としてはいかがなものか」と、地元紙ガルフニュースのインタビューを通じて警鐘を鳴らしたのである。シェイク・ハムダンは、「場所によって馬場の状態が一律ではなく、朝と夜でコンディションが違うタペタは、ことに初めて走る馬にとっては非常に難しい路面だ。また、他のブランドのオールウェザートラックをこなした馬が、必ずこなせるとは限らないのがタペタだ」と、その不確実性に言及した。

 そのシェイク・ハムダンが所有するムカードラムが、G1ドバイワールドCに出走した「芝馬」の中で最も良く路面をハンドリングし、2着に好走したのは何とも皮肉な結果だったが、シェイク・ハムダンの発言に「我が意を得たり」と思った関係者は多かったと聞く。

 その一方で、タペタだからこそ今年のドバイワールドCのような多彩な顔触れが揃ったのだと、その重要性を評価するコメントを出したのが、昨年のこのレースの2着馬レッドカドーを今年もドバイワールドCに出走させたエド・ダンロップ調教師だった。「英国ダービー馬が出走し、プリンスオヴウェールズS2着馬やキングジョージ3着馬が参戦し、香港における国際競走の勝ち馬が2頭も遠征してくるというのは、路面がダートだったらあり得ないことだ」と、オールウェザートラックであるからこそ、ここでしか見られない国際競走が実現している点を強調した。

 今年のドバイワールドCでは、前述したようにプリンスオヴウェールズS2着馬ムカードラムこそ2着に好走したものの、13着と大敗した英国ダービー馬ルーラーオヴザワールドを筆頭に、キングジョージ3着馬のヒルスターが14着、香港国際競走の勝ち馬アキードモフィードとミリタリーアタックがそれぞれ5着と10着と、芝馬たちの多くが真価を発揮したとは言い難い結果に終わった。それぞれ、地元のオールウェザートラックで入念に調整され、伯楽と言われる人たちが「こなせる」と判断して送り出した馬たちが、全く動けずに終わっているのだ。中には、休み明けが主たる敗因だった馬もいるかもしれない。だが、実戦を走ってみなければ、本当の適性は判らないというのが、タペタの厄介なところである。

 通常であるならば10年は保つと言われているのがオールウェザー素材だが、気候の厳しい場所では耐用年数が短くなるとも言われており、敷設から5年が経過したメイダンのタペタも、入れ替えの時期が迫っているというのが一般的な見方である。

 来年のドバイワールドCが、果してどんな路面を舞台に開催されるのか。その動向を注視したいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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