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【ダービー特別企画】当事者が語るGI制覇の舞台裏〜ジャングルポケット・角田晃一調教師Part2

  • 2014年05月28日(水) 17時59分
角田晃一調教師

▲弥生賞優勝時のフジキセキ(撮影:高橋正和)


◆“幻のダービー馬”フジキセキの残像

 94年、サンデーサイレンスの初年度産駒としてターフに登場したフジキセキは、新馬戦、もみじS、朝日杯3歳S、弥生賞とケタ違いの強さで4連勝。皐月賞を前に、前年のナリタブライアンに続く2年連続の3冠馬誕生を予感させたほどの馬だった。しかし、皐月賞に向けて調整が進められていた3月下旬、左前脚に屈腱炎を発症。関係者による協議の末、そのまま引退という選択がなされた。

 馬主・齊藤四方司、調教師・渡辺栄、主戦・角田晃一、厩務員・星野幸男。一生一度、出会えるか出会えないかの逸材のリタイアに、チーム・フジキセキの無念たるや、いかばかりだったか。

「たらればですが、フジキセキが無事だったら、ダービーを勝っていたと思うんですよね。実際、もみじSで子供扱いにしたタヤスツヨシが、その年のダービーを勝ったわけですから。フジキセキという馬は、とにかく負けることがイメージできない馬でしたね」

 しかし、縁とは不思議なもの。その6年後の00年、チーム・フジキセキは何かに吸い寄せられるようにして、再び同じ夢を追いかけることになる。その夢の続きを託された馬こそがジャングルポケット。陣営のダービーへの執念には、フジキセキで味わった無念が込められていた。

「ジャングルポケットに目を付けたのは渡辺先生だと思います。セリで狙っていた馬を落とせなかったようで、セリ馬以外でいい馬はいないかということになり、ジャンポケに目をとめたらしいです。セリで狙った馬を順当に落とせていたら、ジャンポケが渡辺厩舎に入ってくることはなかったでしょうね。それもまた、競馬の不思議な縁ですよね」

◆タキオンvsジャンポケ、2強対決の皐月賞

 共同通信杯を制したジャングルポケットは、トライアルを使わず、そのまま皐月賞に直行するローテを選択。本番まで2か月以上あったが、ダービーから逆算しての既定ローテだった。その間、ライバルのアグネスタキオンは弥生賞で、クロフネは毎日杯で、奇しくも同じ5馬身差の圧勝を飾り、ともに順調な仕上がりを見せていた。

「先生は当初、『皐月賞は使わない』とおっしゃっていたんです。というのも、当時は中山の馬場が本当に悪くて。早くからダービーを目標にやってきたなかで、万が一故障でもしたら大変ですからね。確かタキオン陣営も(皐月賞出走を)迷っていたんじゃないかな。でもまぁ、結局は使うことになって。確かに1、2番人気になることが確実な2頭が使わないっていうのもね(苦笑)」

 迎えた皐月賞では、アグネスタキオンが単勝オッズ1.3倍の圧倒的な支持を集めた。ジャングルポケットは同3.7倍の2番人気。とはいえ、3番人気ダンツフレームの単勝が16.8倍もついていたから、完全なる2強対決の構図であった。

「2000mでのタキオンの強さは、ラジオたんぱ杯で十分わかっていましたから、皐月賞は正直“どうかな…”という感じでした。しかも、一完歩目から躓いてしまって。1枠1番でゲート内で待たされたことで、精神的な幼さが出てしまったこともありますが、土のような馬場をローラーで固めていたので、滑りやすい馬場だったことも災いしました。本当にもう、落馬寸前でしたからね。そんな状態でしたから、ゲートを出た時点では一番後ろ。もう腹をくくるしかありませんでしたね」

 中山芝2000mは、後方からの競馬になるとどうしても4コーナーで外に振られてしまう。外から早めに動いて直線もよく差を詰めたが、さすがのジャングルポケットも3着が精一杯だった。勝ったのは1番人気アグネスタキオン。2着ダンツフレームに1馬身半の差をつけての実に危なげない勝利だった。

「悔しさのなかにも、長い脚をどれだけ使えるかという点では計れたところはありましたね。スタミナがあって、キレるというよりバテない馬だったので、2400mなら…という思いがありました。確かにタキオンはものすごく強い馬でしたが、“ダービーの称号はこっちがもらう!”くらいの気持ちでいましたね」

角田晃一調教師

▲角田「2400mならタキオンに逆転できる…と」


◆再戦を目前にライバル・タキオンが離脱…

 ラジオたんぱ杯、皐月賞と、アグネスタキオンの切れ味を前に、苦汁をなめてきたジャングルポケット。次なる舞台は、タフな東京芝2400m。無敗のライバルに土を付ける絶好のチャンスだった。が、しかし──皐月賞から約2週間後の5月2日、左前浅屈腱炎を発症したアグネスタキオンが、ダービーを断念することが発表された。角田は、その報を受けたときの気持ちを、「複雑でしたね」と振り返る。

「ダービーこそはという気持ちも、一緒に走ることが前提でしたからね。同じ舞台に立って借りを返したいという気持ちが強かったので、本当に複雑でした。(アグネスタキオンを管理する)長浜厩舎のスタッフの方もよく知っていたし、それこそ坂路で一緒に調教したりしていたんです。回避することが決まったときは、『ダービー、頑張ってな』って言ってくれて」

■アグネスタキオン河内洋インタビューも公開中!

 その直後、もう1頭のライバルであるクロフネは、1番人気に応えてNHKマイルCを優勝。当時はNHKマイルC1着、または青葉賞2着以内が外国産馬に課せられたダービー出走の条件だったが、開放元年に送り込まれた“黒船”は、あっさりとその条件をクリアしてみせた。ジャングルポケットvsクロフネ──この2頭の対決を中心に、01年ダービーは盛り上がりを見せていった。(Part3へつづく・文中敬称略)

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