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芝平地シーズンが開幕した英国では早くも4鞍の2歳重賞

  • 2014年06月25日(水) 12時00分


◆2頭の勝ち馬を出したスタースパングルドバナーは授精率が低く一度は現役に復帰

 芝平地シーズンの開幕と同時に2歳戦がスタートした英国では、6月17日から21日まで開催されたロイヤルアスコットで既に、4鞍もの2歳重賞が行なわれている。

 17日に行なわれたG2コヴェントリーS(芝6F)は、古い時代で言えば3冠馬ロックサンド、20世紀を代表する名馬ミルリーフ、そして今世紀に入ってからも、ヘンリーザナヴィゲイター、ドーンアプローチ、パワーといった翌春のクラシックホースが制しているという、この時季のこの距離の2歳戦にしては驚くほど多く、近未来の名馬を輩出している競走だ。

 今年、このレースを逃げ切って制したのは、6倍の1番人気に推されていたザワウシグナル(牡2、父スタースパングルドバナー)だった。

 5月21日にエアで行われたメイドン(芝6F)を9馬身差で制してデビュー勝ちを果した同馬。その後、カタールのシェイク・ジョアンが運営する競馬組織アルシャカブにトレードされ、ここへ駒を進めていた。

 豪州産の父スタースパングルドバナーは、祖国でG1コーフィールドギニー(芝1600m)、オークレイプレート(芝1100m)などを制した後、愛国に移籍。欧州でG1ジュライC(芝6F)、G1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)を制した馬だ。11年に種牡馬入りし、今年の2歳が初年度産駒となるが、授精率が低く商業ベースに乗せる種牡馬としては不適格と判断され、12年に現役復帰を果たし13年春まで改めて競走生活を送っている。そういうわけで、今年2歳の初年度産駒は限られた頭数しかいないのだが、そんな中から、本馬と後述するG2クイーンメアリーS勝ち馬アンセムアレグザンダーが出て、大きな話題を呼んでいる。

 ザワウシグナルの母は未出走馬。母の兄にLRアメジストS(芝8F)勝ちのトルパドルがいる牝系の出身だ。

 総体的に見てスピード偏重の血統構成ではあるが、母の父は12FのG1勝ち馬ハイチャパラルで、マイルまでは守備範囲にありそう。更に、2歳戦で終わる血脈でもない。大手ブックメーカーのウィリアムヒルは早速、来春のG12000ギニー(芝8F)へ向けた前売りで同馬を、オッズ17倍の1番人気に支持することになった。

 18日に行なわれた牝馬のG2クイーンメアリーS(芝5F)も、前述したように勝ったのはスタースパングルドバナーの初年度産駒の1頭であるアンセムアレグザンダー(牝2)だった。

 21頭という多頭数となったが、アンセムアレグザンダー(3.25倍の1番人気)に、北米から遠征してきた1戦1勝のスパニッシュパイプドリーム(牝2、父スキャットダディ、3.75倍)、前走サンダウンのLR英ナショナルS(芝5F6y)を制して早くも3勝目を挙げたティギーウィギー(牝2、父コーディアック、4.5倍の3番人気)を加えた3頭による三つ巴というのが、大方の見るところだった。

 レースは、残り2F付近で馬なりのまま先頭に立ったアンセムアレグザンダーが、ティギーウィギーの追撃を首差凌いで優勝。大外を追い込んだスパニッシュパイプドリームは4着に終わっている。

 前走、ティッペラリーのメイドン(芝5F)を7馬身差で制し、デビュー2戦目にして初勝利を挙げここへ臨んでいたアンセムアレグザンダー。母レディーアレグザンダーがG3アングルシーS(芝6F)、G3モルコムS(芝5F)の勝ち馬で、兄にG3パレスハウスS(芝5F)勝ち馬ダンディマンがいるという良血ながら、昨秋のタタソールズ・オークトーバーセールでは4万8000ギニー(約785万円)で主取りとなっている。

 仕上がり早で2歳戦に向いた血統背景であることは間違いなく、少なくともこの秋までは世代の最前線で頑張るだろうし、来春以降はスプリント戦線で上位争いをすることになる馬だろう。

 19日に行なわれたG2ノーフォークS(芝5F)は、01年にヨハネスブルグ、06年にダッチアートという、その後の成功種牡馬が2歳時に制していた一戦だ。

 A・オブライエンの管理馬で、デビューからいずれも楽勝で2連勝を飾っていたザグレートウォー(牡2、父ウォーフロント)がオッズ1.83倍という圧倒的1番人気に推されていたが、同馬は5着に敗退。勝ったのはオッズ9倍で3番人気に推されていたベイザオルガ(牡2、父ファストカンパニー)だった。

 5月31日にチェスターのメイドン(芝6F8y)を制してデビュー2戦目で初勝利を飾った後、前走エプソムのLRウッドコートS(芝6F)を連勝してここへ臨んでいた同馬。父は2歳G3エイコムS(芝7F)勝ち馬で、仕上がり早を特性とした馬だったが、母は8Fのメイドンを制した1勝馬で、その兄にG3ミンストレルS(芝8F)勝ち馬シブルがいるという牝系は、本馬がマイルまでは守備範囲にあることを示唆している。次走は、ドーヴィルのG1モルニー賞(芝1200m)の予定だ。

 20日に行なわれた2歳牝馬のG3オルバニーS(芝6F)。

 前走ベルモントパークのメイドン(芝5F)を制してデビュー2戦目で初勝利を挙げた北米調教馬サンセットグロウ(牝2、父エクスチェンジレイト、8倍の4番人気)がライバルを離して逃げ、ゴール前を迎えてなお頑張りを見せたが、残り100m付近でこれに並びかけて来たのが中団で脚を溜めていたカーソリーグランス(牝2、父ディストーテッドヒューモア、15倍の7番人気)で、最後は同馬がサンセットグロウを2馬身突き離して優勝を飾った。

 北米産で、1歳秋にセプテンバーセールに上場されたものの15万ドルで主取りとなり、生産者のメリーフォックススタッドが所有することになったカーソリーグランス。英国ニューマーケットのR・ヴァリアン厩舎に入り、5月21日にケンプトンのメイドン(AW6F)でデビュー勝ちを飾ってここへ臨んでいた。

 2戦2勝で重賞制覇を果した同馬を、大手のウィリアムヒルが来年の1000ギニーへ向けた前売りでオッズ15倍の本命としたのを筆頭に、各社が現段階における1番人気に推すことになった。

 母タイムコントロールは10Fのメイドンの勝ち馬で、その父はサドラーズウェルズ。母の姉にG2マルレ賞(芝2400m)勝ち馬タイムオンがいるという血統背景から、この馬も少なくともマイルまでは守備範囲にあると見られている。今後の動向を追い掛けていきたい1頭と言えそうだ。

 カーソリーグランスだけでなく、ここでご紹介した4頭はいずれも、単に仕上がりの早さだけで重賞を制したわけではなさそうな馬たちで、進む路線は様々になりそうだが、しばらくは目の離せない存在となりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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