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皐月賞というよりは日本ダービー/共同通信杯

  • 2016年02月15日(月) 18時00分


ディープインパクト産駒とは思えないパワーが最大の長所

 12月のホープフルSを左前肢フレグモーネのため出走取り消しとなったディーマジェスティ(父ディープインパクト)が、一転、激しく巻き返しての快勝だった。

 これでこの3歳世代の男馬は、ロードクエスト(新潟2歳S)、アドマイヤエイカン(札幌2歳S)、シュウジ(小倉2歳S)、ブレイブスマッシュ(サウジアラビアRC)、ボールライト二ング(京王杯2歳S)、エアスピネル(デイリー杯2歳S)、スマートオーディン(東スポ杯2歳S)、ドレッドノータス(京都2歳S)、リオンディーズ(朝日杯FS)、ハートレー(ホープフルS)、ロジクライ(シンザン記念)、プロフェット(京成杯)、サトノダイヤモンド(きさらぎ賞)、ディーマジェスティ(共同通信杯)…。さらに、3歳になってのオープン特別の勝ち馬は、ダンツプリウス(ジュニアC)、マカヒキ(若駒S)。路線の重要なレースを、ことごとく異なる馬が制する形がつづいている。

 もともと3歳のクラシック路線は、まだまだ未完成な若駒のレースなのに「なぜ、こんなに高い評価を受けるのか」。優れた才能に恵まれた馬をいち早く発掘し、「それを次の世代に結びつけるための意義と必要がある」と考えられた側面があったからであり、そんな250年も前の発想が、いまサラブレッドが世界中に広がり、年に10万頭を超える生産頭数がいる現代に通用する不変、普遍の真理とはだれも考えていない。出発は生産頭数が200〜300頭の時代である3歳クラシック競走の勝ち馬には、菊花賞を終えた時点で【7-0-0-0】の3冠馬ディープインパクトもいれば、同じ3冠馬でも3歳2月の時点では【1-2-1-1】だったオルフェーヴルもいる。ワンアンドオンリーのように菊花賞を終えた時点で【4-3-0-4】となった馬もいる。ドゥラメンテは共同通信杯を負けて、この時期【2-2-0-0】だった。

 有馬記念やジャパンCは、何度も挑戦して何回も勝てる。だが、その世代の皐月賞馬は1頭だけ。日本ダービー馬も、菊花賞馬もひとつの世代に1頭だけ。「だから価値があるのだ」というのはきわめて正確な事実だが、年により、世代により、歴史の中で、皐月賞馬や日本ダービー馬やあるいは菊花賞馬が、その世代のなかでもっとも優れた馬であるとは限らないのも事実である。

 勝ったディーマジェスティは、3代母がドフザダービー(その父マスターダービー)。その産駒に、輸入された種牡馬ジェネラス、武幸四郎騎手がデビュー当週にマイラーズCを勝ったオースミタイクーン、ディーマジェスティの祖母シンコウエルメス(父サドラーズウェルズ)がいる。

 以前はジャパンCに2回も来た女傑トリプティク(父リヴァーマン。母トリリオン)の一族として紹介されることが多かったが、現代では凱旋門賞を2連勝したトレヴ(父モチヴェイター)の近親馬と評されるだろう。トレヴの4代母トリリオンは、ドフザダービーの半姉である。

 稍重の馬場で大きな芝の塊がさかんに飛んでいた。でも、ディーマジェスティはジェネラス(1991年の英ダービー馬)の一族らしく、1分47秒4(ただ1頭だけ上がり34秒9)。標準以上の時計で力強く抜け出した。3コーナー過ぎからもう蛯名騎手は例のアクションなので、スイスイ進出したわけではない。ずっと追い通しの状態で伸び切ったからすごい。これで東京芝は2戦2勝。皐月賞というよりは、イメージは日本ダービーか。とても鋭さが武器のディープインパクト産駒とは思えないパワーが最大の長所だろう。蛯名正義騎手は、この9年だけで共同通信杯4勝目。二ノ宮調教師も、エルコンドルパサー(このときは的場均騎手)などで共同通信杯4勝目となった。

 クラシック路線では、みんなの目が厳しくなる。今年の牡馬の場合、ずっと主要路線のレースを別の馬が勝ってきたから、おそらくみんなの視線はいつもの年以上にきついかもしれない。でも、多くの候補があふれているから、1度や2度くらい負けるのは仕方がないかもしれない。主なクラシック候補の中で、まだ負けていないのは、サトノキングダム(2連勝)、サトノダイヤモンド(3連勝)、ジークカイザー(2連勝)、ドレッドノータス(2連勝)、マカヒキ(2連勝)、リオンディーズ(2連勝)、レーヴァテイン(2連勝)…などだが、これに新星が加わっても、3月の「弥生賞、スプリングS」が終了する時点では、クラシックに無敗のまま出走できるのは「2〜3頭」にとどまる。路線の途中で負けた馬をそのたびに見捨てていては、ディープインパクト型に乗るしかなくなってしまう。結果が出るたびに勝ち馬の側に回るのは、こと競馬の、ことクラシックシーズンにのみ許される回路であり、世の中では絶対に通用しないことをいつも再確認したい。敗れた馬のオーナー、生産者、調教師、手がけるスタッフの落胆は、とてもわたしたちの比ではない。

 人気のハートレー(父ディープインパクト)は戦意喪失の9着。2番人気のスマートオーディン(父ダノンシャンティ)も6着だった。両陣営、両騎手ともに、レース直後は1秒も1秒半も大負けしたから首をひねるばかりだった。しいて敗因を探せば、ハートレーは使い出して3戦目。ちょうど目にみえない疲れが出る馬のいる日程であり、当日、エース級の馬がかもしだすムード(雰囲気)がまったくなかった。なぜか、急に寸詰まりの体型バランスにも映った。しかし、陣営のショックは、懸命に走っての3〜4着より、ある意味では軽いはずである。少なくとも全然、力を出し切っていないのだから。立て直す時間はある。09年ロジユニヴァースは、14着大敗(1秒9差)の皐月賞のあと、日本ダービーを勝った。

 スマートオーディンは、ポカのあるタイプという見方もあるが、爆発力を生かすには正攻法のレースは合わないタイプかもしれない。今回は同じ東京1800mの東スポ杯2歳S(超スロー)より、自身の前半1000m地点を3秒以上(推定)も速い通過だった。ささるクセもほとんど出さなかったが、坂で止まった。総合力の1800m程度が応えたとは思えないが、あまり距離は延びない方がいいのだろうか。しかし、とてもこのままの3歳春ではないはずである。

 3番人気メートルダール(父ゼンノロブロイ)は、相手の力量を分かっているからこそのC.ルメール騎手の、マーク違いの一面もあったか。坂上からの脚は光っていたが、目標の1頭だったハートレーが伸びるどころか、急に止まるとは思ってもいなかったろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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