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必然であり、運命

  • 2016年09月01日(木) 12時00分


ヴゼットジョリーで勝利した福永騎手

 一休さんと言えば頓知、場面や状況などに応じて即座に知恵を出すお坊さんと承知している。その一休和尚が「将来、大きな問題が生じた時に開けなさい」と遺言状を残し、百年後に大きな問題が寺に発生したとき、それを思い出して開けてみると、そこにはこう書かれていた。「ナルヨウニナル、シンパイスルナ」と。「運命は神の考えることだ。人間は人間らしく働けばそれでいいのだ」と夏目漱石は「虞美人草」で述べている。何事も偶然であり、必然であって、運命とはそういうものだから、それ以上無理することもないではないか。そう思えば気は楽になる。

 新潟2歳Sで、それまで調教にすら乗ったことのないヴゼットジョリーに騎乗した福永祐一騎手の勝利騎手インタビューを聞いていて、なるほどと思った。「しつけがよく行き届いていたので、自信を持って思い描いたとおりのレースができました。返し馬で、瞬時に反応するタイプではなさそうなので、惰性をつけて上がって行こうと、そうしました」と感じたとおりのレースをし、スパートのタイミングもピッタリで、2014年に開業した中内田調教師に初重賞制覇をもたらした。

 状況をつかんで即座に立てた対策、そこには何も無理がない。そのようにするのが必然であり、そうすることで勝利するのが運命であったかのようだ。大混戦ムードで、どれといって強調できる材料のないレースだったが、終ってみればヴゼットジョリーの完勝、さすが2歳重賞らしいと言えばそのとおりだが、こういうときほど、その馬に合った戦い方ができたものに幸運はおとずれる。これでこの馬の持ち味は、スピードの持続力のあるところと判明したのだが、牝馬の勝利といえば2013年のハープスター以来。あの直線一気の仰天の追い込みにくらべたら、こちらはずっと従順で優等生といったところ。それが今後どう出るか、そこに興味が移ってきた。

 ところで、新潟2歳Sの牝馬の優勝は、この10年で5頭目。実は、この5頭に共通しているのが、全ての優勝馬の前走が1400米だということ。距離を延ばしてきての勝利という共通点があるのが面白い。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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