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もしかしたらの思い

  • 2017年02月09日(木) 12時00分


◆確信に近いもしかしたらも存在する

 もしかしたらと願うときがある。切羽詰まったときのもしかしたらは、悲壮感がともなうので、なるべくそうはなりたくない。その手前でなんとかしておきたい。だが、ひとつの確たる目標が見えているときのもしかしたらは、心をかき立てる。

 全長10.5メートルのヨットで地球を縦回り6万キロの航海に成功した堀江謙一さんは、「全力をつくして能力の限界に挑みたい」と言って、ハワイからタヒチ、南極大陸をかすめ、反転して北極海を通るという冒険をなし遂げた。もう30年以上も前になる。成功するしないの結果よりも、いかに挑んだのかが大切なんだと、その時思った。それはもしかしたらという通念を超えたものだから、これを冒険と言うのだろう。

 この先の道すじを決めるべく戦うこの時期の重賞には、もしかしたらの思いで挑戦してくるものが多い。誰もが認める本命馬がいるときには、このもしかしたらは、事前に戦況を予感しておくもので、それが的中したものに勝利がもたらされる。

 東京新聞杯を逃げ切ったブラックスピネルのデムーロ騎手は、行く馬がいないのでペースは速くはならないと読んでいた。なるべく前につけるようにと音無調教師から言われていたが、いいスタートが切れてペースが遅かったのでハナに立って自分のリズムで楽に逃げることができたのだった。これは、確信に近いもしかしたらだったのだ。マイルでこんなに遅いペースはめずらしかったし、2着プロディガルサンの上がり32秒0は滅多にみられるものではないし、今年のマイル戦線は多彩な顔ぶれになった。

 きさらぎ賞でサトノアーサーを破ったアメリカズカップは、朝日杯FSの出負け大敗から松若騎手は、とにかくいいスタートを切ることに集中していた。その通り好スタートして流れに乗せ、長くいい脚を見せる馬だからと早目に動き出して、道悪に手間取る本命馬追撃を完封した。若い騎手が知り尽くしているお手馬でクラシックに登場できる、新風を期待したい。もしかしたらを念頭に、どう挑むか、こんな伏兵がまだまだいる筈だ。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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