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生え抜きが活躍する高知

  • 2018年05月08日(火) 18時00分


◆なぜ強い馬が続けて出てくるのか、検証の価値はあるはず

 先週のこのコラムでは、地方競馬の新人騎手6名のうち4名が初勝利を挙げたと伝えたが、その直後、5月3日には北海道の落合玄太騎手が16戦目で初勝利を挙げた。残るは大井の吉井章騎手だが、さすがに南関東の、それも大井所属ともなると、新人騎手にとってはひとつ勝ち星を挙げるのも難しい。それでも5月7日現在で2着は3回あるので、近いうちの初勝利を期待したい。

 さて本題。6日に行われた高知3歳の一冠目、黒潮皐月賞は、1番人気に支持された牝馬のヴァリヤンツリがゴール前で見事に差し切りを決めた。

喜怒哀楽

高知3歳の一冠目、黒潮皐月賞はヴァリヤンツリが優勝(写真提供:高知県競馬組合)


 高知では売上げが低迷した一時期、2歳馬の入厩がほとんどなく、2歳重賞が中断されていた時期があった。それでも2009年度に金の鞍賞が復活(2010年1月1日の実施だったので実際には3歳重賞だが)。さらに2歳馬の入厩を促進するため、2015年には、当時の高知競馬としては破格に高額な1着賞金50万円の2歳新馬戦を実施。その勝ち馬の1頭、ディアマルコは、翌2016年グランダム・ジャパンの3歳シーズンでは2位、古馬シーズンでも3位に入るなど全国区で活躍。地元高知でも高知優駿と黒潮菊花賞の二冠を制した。

 さらに2016年にデビューした2歳馬からはフリビオンが出た。黒潮皐月賞、高知優駿の二冠を制し、三冠確実と思われたが、三冠目の黒潮菊花賞と西日本ダービー(佐賀)の日程が近かったため、より上を目指して西日本ダービーに遠征、見事勝利を収めた。水沢のダービーグランプリは惜しくも2着に敗れたものの、地元に戻って3歳ながら高知県知事賞を制して見せた。

 2年連続で地元高知生え抜きの馬から世代のチャンピオンが誕生。そして、この2頭に続く生え抜きチャンピオンの筆頭候補となったのが、黒潮皐月賞を制したヴァリヤンツリだ。

 ヴァリヤンツリは1着賞金50万円の高額新馬戦には出走していないものの、デビューから2戦連続2着のあと4連勝で黒潮ジュニアチャンピオンシップを制した。現在高知で行われている2歳重賞、黒潮ジュニアチャンピオンシップと金の鞍賞では、同じく生え抜きのネオプリンセスと1、2着を分け合い、2歳時はともにオール連対を守った。ネオプリンセスは3歳になって順調に使えず不振だが、ヴァリヤンツリは3歳になっても連対を外したのは土佐春花賞での3着のみ。それもクビ、半馬身差という僅差。黒潮皐月賞は1番人気にこたえての勝利となった。

 その黒潮皐月賞は、1頭が除外となって出走したのは10頭。そのうち高知生え抜きはわずか3頭で、1、2番人気のヴァリヤンツリ、レマンコが1、3着となったことでも、いかに高知デビュー馬のレベルが高いかがわかる。

 一方で近年、2、3歳戦線で地元生え抜き馬が苦戦しているのが佐賀。今年の3歳戦だけを見ても、昨年度まで行われていたS2重賞も含め、ここまで3歳重賞は8戦(JRA交流のたんぽぽ賞は除く)行われたが、地元生え抜きが制したのはル・プランタン賞のマイメンだけ。佐賀では2歳時には地元デビュー馬限定の重賞があったり、3歳年明けには、重賞でも特別でもない一般戦ながら重賞級の高額賞金の佐賀デビュー馬限定戦(佐賀若駒賞)が行われるなど、いわば地元デビュー馬を優遇するレースが行われている。それがいいのか悪いのかは意見の別れるところ。2歳新馬の入厩促進にはなるが、一方でそこだけ勝てればいいやという過保護になってはいないだろうか。

 そういう意味でも、2歳重賞を復活させてからわずか6年、高額の新馬戦を始めてから毎年のように、地元のチャンピオンというだけでなく、全国区でも活躍する生え抜きが毎年のように出てきているという高知競馬は“あっぱれ”と思うのだ。なぜ生え抜きからそうした強い馬が続けて出てくるのかは、あらためて検証してみる価値はあると思う。

 以下は余談。昨年3歳時に全国区の活躍を見せたフリビオン、そして今年の黒潮皐月賞を制したヴァリヤンツリは、ともに中西達也厩舎で主戦は西川敏弘騎手、馬主は西森鶴さんという同じチームの活躍馬。中西調教師は昨年8月からの調教師転身で、7月まではフリビオンの主戦騎手だった。黒潮皐月賞は、騎手として7勝を挙げ、そして調教師としてはヴァリヤンツリで初勝利という記録にもなった。

喜怒哀楽

昨年の西日本ダービーを制し、全国区の活躍を見せたフリビオン


 現在厩舎で休養中というフリビオンは、向正面から追い通しでもなかなかエンジンがかからず、4コーナーから直線でようやく弾けるというなかなかにズブいタイプ。一方のヴァリヤンツリはあまりまじめには走らず、抜け出してしまうとレースをやめてしまうため、黒潮皐月賞では「(ゴール前の)ギリギリで先頭を交わすのが理想だったので、それがうまくいった」と西川騎手は話していた。どちらも個性的なタイプの高知世代最強馬(候補)ということでも興味深い。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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