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“無敗の女王“が復活のラストラン 欧州障害の祭典・チェルトナムフェスティヴァル

  • 2023年03月22日(水) 12時00分

ストライキにも負けない内容の濃いレースが開催された


 3月14日から17日まで英国のチェルトナムで開催された、ヨーロッパの障害カレンダーで最高の権威を誇る「チェルトナム・フェスティヴァル」は、残念ながら前年に比べて観客動員数を大幅に落とすことになった。

 2022年は、7万3875人を集めた最終日を筆頭に、4日間で通算28万0627人が詰めかけ、平地のロイヤルアスコットを上回る集客力を見せたのがチェルトナム・フェスティヴァルだ。

 あまりにも人が多すぎて、快適に過ごすことが出来ないという理由で、今年は1日辺りのキャパシティを6万8500人に制限。したがって、ある程度の観客減は予測されていたが、結果は、キャパシティ一杯の観客が入ったのは最終日の17日(金曜日)のみ。初日の火曜日はキャパの88%、2日目の水曜日は74%、3日目の木曜日は91%に留まり、4日間の総集客数は前年比で3万9027人減の24万1600人に留まった。

 1日平均にすれば6万人以上動員したことになり、興行としては依然として大盛況と言ってよい結果ではあるが、競馬産業界としてはいささか気になる推移である。

 主催者側はその要因として、昨今の物価高で市民がレジャーに廻せる金額が減少していること、開催期間中に鉄道のストライキが通告されていたことから、二の足を踏んだファンが多かったこと、などを挙げている。

 入場者こそ減少したものの、施行された28競走はいずれも見応え充分で、きわめて内容の濃いフェスティヴァルだったというのが、大方の見るところである。

 初日のメイン競走であるG1チャンピオンハードル(芝16F87y)、2日目のメイン競走であるG1クイーンマザーチャンピオンチェイス(芝15F199y)、4日目のメイン競走であるG1ゴールドC(芝26F70y)には、いずれもほぼ1本被りの大本命馬がいたが、それぞれが大向こうを唸らせるような見事なパフォーマンスを披露して圧勝。強い馬が強い競馬をするという、競馬の醍醐味を存分に堪能することが出来た。

 中でも、G1チャンピオンハードル勝ち馬コンスティテューションヒルは6歳、G1ゴールドC勝ち馬ギャロパンデシャンは7歳と、障害馬としては若い馬たちで、今後それぞれの路線で長期政権を築くことが確実視されている。看板となるスーパースターがいるというのは、来季以降の障害競馬をいかに盛り上げていくかを考える上で、好ましい状況と言えよう。

 来季以降ということを踏まえると、望まれるのは英国調教馬の奮起である。前述したように、チェルトナム・フェスティヴァルには4日間を通じて28競走が組まれていたが、このうち18競走を制したのは愛国調教馬で、英国調教馬の勝利は10競走に留まった。2016年以降、両国14勝づつで引き分けた2019年を除けば、毎年愛国調教馬が勝ち越している。英国のファンとすれば、開催がさらに盛りあがるには、地元勢の活躍が不可欠と言えそうだ。

 開催リーディングは、騎手がG1ゴールドC、G1クイーンマザーチャンピオンチェイスを含めて5勝をあげたポール・トウネンドが、調教師がG1ゴールドC、G1クイーンマザーチャンピオンチェイスを含めて6勝をあげたウイリー・マリンズが獲得。こちらも愛国勢がタイトルを占めている。

 そんな中、2023年のチェルトナム・フェスティヴァルにおけるハイライトの1つが、初日に組まれた牝馬限定戦のG1メアズハードル(芝19F200y)だった。

 ここが現役ラストランとなったのが、2018年11月から2022年4月まで丸4シーズンにわたって、ハードル2〜2.5マイルの路線で無敗の16連勝をマークしたハニーサックル(牝9、父スラマニ)だった。ハードル初戦から女性騎手の第一人者レイチェル・ブラックモアが手綱をとってきた同馬は、G1チャンピオンハードル2連覇、G1愛チャンピオンハードル3連覇、G1ハットンズグレイスハードル3連覇など、牡馬の強豪を相手に一歩も引かないパフォーマンスを展開。絶対女王としてヨーロッパ競馬界を牽引してきた。

 ところが、今季初戦となったG1ハットンズグレイスハードルでよもやの3着に敗れ、連勝がストップ。続くG1愛チャンピオンハードルでも2着に敗れ、ハニーサックル・マニアたちは悲鳴をあげることになった。

 同馬を管理するヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師は、この段階での引退も考慮したが、馬主との協議の末に、もう1戦することを決断。ラストランとなったG1メアズハードルで、今季初めてハニーサックルは彼女らしいパフォーマンスを見せ、見事に有終の美を飾ったのである。

 感極まった表情のレイチェル・ブラックモアを鞍上に、ハニーサックルが引き上げてきた時、場内には4日間を通じて最も大きな歓声が沸き上がった。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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