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【アイビスSD】一瞬の切れ味で鮮やかな勝利 石川裕紀人騎手の絶妙な騎乗

  • 2023年07月31日(月) 18時00分

陣営の会心の仕上げも功を奏した


重賞レース回顧

オールアットワンスが勝利(撮影:下野雄規)


 勝ち馬オールアットワンス(父マクフィ)の、2021年につづいての直線1000m重賞2勝目が決まった。今回は昨年のアイビスSD以来、ちょうど1年ぶりの長期休養明け。内枠3番を引いたこともあって人気薄だったが、北海道の牧場での放牧、そのあとはノーザンF天栄での入念な乗り込みを経て、美浦での最終調整。華奢に映ることがあった馬体は1年前よりプラス18キロ増の474。3歳の春には428キロで出走したこともあるから、ひと回りどころか別馬のようにたくましくなっていた。途中からこのレースに目標を定めた陣営の会心の仕上げだった。中363日での重賞制覇は、あのトウカイテイオーの有馬記念と同じだった。

 C.ホー騎手の落馬負傷で、当時はテン乗りで勝った2021年の石川裕紀人騎手とのコンビが成立したのも、オールアットワンスには幸運だった。これでコンビでの直線1000m成績【2-0-0-1】となった。昨年は同じ3番枠から周囲のライバルとともにインを進んで6着だったが、今年は馬場の外側に行くつもりだったのだろう。その外へ転回のタイミングが絶妙。

 いきなり外を狙うのではなく、スタートして約1ハロンあたりで多くの馬が外へ動いたあと、空いたスペースを探しながら外へ、外へ。中間地点あたりでは、先に外へ動いていたロードベイリーフ(父ヴァンセンヌ)とともに外ラチ沿いを確保していた。そのすぐ前に少しずつ外に移動していた2着のトキメキ(父アドマイヤムーン)がいた。

 改めて直線1000mの難しさを思わせたのはそこから。秘める一瞬の切れ味を承知の石川騎手は、スペースを探して馬群の内に進路を求めたロードベイリーフ、ここが勝負どころと、スパートしたトキメキを見ながら、タイミングを少し遅らせている。

 抜け出したトキメキの内側に突っ込んだのは、2021年、アイビスSD2勝目を目ざして押し切りを狙ったライオンボス(父バトルプラン)を、ゴールまで1ハロンを過ぎてから並びかけて差し切った勝ち方とダブったように思えた。トキメキも、惜しい3着にとどまったロードベイリーフも、おそらく全能力を爆発させているだろう。だが、直線1000mのゴール寸前を知っていたのは、このレースを勝っていた石川騎手だった。

2002年、2004年 カルストンライトオ(大西直宏)
2008年、2009年 カノヤザクラ(小牧太)
2015年、2016年 ベルカント(M.デムーロ)
2021年、2023年 オールアットワンス(石川裕紀人)

 これでアイビスSDを2勝した馬は4頭。コンビの鞍上はみんな同じである。

 今年、珍しく人気上位馬が総崩れとなったが、前日の3歳上1勝クラスを快勝した3歳牝馬ダンシングニードル(父ファインニードル)は、53秒9(21秒5-32秒4)。一方、激戦を制したオールアットワンスの時計は、54秒9(22秒6-32秒3)だった。

 負担重量が異なるとはいえ、レースの流れが大きく関係する2000m級や、強風下や、異なる週ならありえるが、同じ天候で、同じ高速馬場で、直線1000mの勝ち時計の「1秒0」もの差は不思議だ。1勝クラスで完敗だった6着馬でさえ54秒8である。

 日本の競馬のタイムは、もう半世紀以上も100分の1秒を切り捨てる世界でも特異なタイム表示にこだわり続けるが、今回はダンシングニードルが素晴らしく強くて速く、アイビスサマーダッシュ組は、ものすごく弱いということになるが、本当なのだろうか。永く雑に切り捨てられ続けてきた電光表示機器が反乱したような気がする。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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