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凱旋門賞の勢力分布をおさらい

  • 2023年08月30日(水) 12時00分

大きなポイントとなるのは重馬場への適性


 ヨーロッパ芝2400m路線の大一番G1「凱旋門賞(10月1日、パリロンシャン競馬場)」の開催まで、あとひと月あまりとなっている。

 いわゆる最終プレップと称されるレースの施行を前にしたこの時期ではあるが、概ね固まりつつある勢力分布を、このタイミングでおさらいしておきたいと思う。

 8月最後の週末を終えた段階で、ブックメーカー各社が4.5倍〜5.0倍のオッズを掲げて1番人気に支持しているのが、フランス調教の3歳馬エースインパクト(牡3、父クラックスマン)だ。

 準重賞入着馬アブソルートミーの5番仔で、アルカナ8月1歳市場にて7万5千ユーロ(当時のレートで約980万円)で購買されたエースインパクト。J.C.ルジェ厩舎から今年1月にデビューし、無敗の3連勝で挑んだG1仏ダービー(芝2100m)を、直線大外一気の末脚を繰り出して、2着以下に3.1/2馬身差をつける快勝。しかも勝ち時計の2分02秒63はトラックレコードだった。

 2カ月半の休みをはさんで、同馬は8月15日にドーヴィルで行われたG2ギヨームドルナノ賞(芝2000m)で戦線復帰。ここも勝って連勝を5に伸ばしている。次走は、9月9日にレパーズタウンで行われるG1愛チャンピオンS(芝10F)参戦が有力だ。

 凱旋門賞と言えば、大きなポイントとなりうるのが重馬場への適性だが、レコード決着の仏ダービーを制しているエースインパクトが、速い時計の決着に適性があることは間違いない。その一方で、デビュー2戦目にボルドールブスカ競馬場の一般戦を制した際の馬場はCollantという極悪の状態で、すなわち、道悪をこなした実績はある。

 続いて、オッズ6.0倍〜8.0倍のオッズで2番人気に支持しているのが、英国調教の6歳馬フクム(牡6、父シーザスターズ)だ。

 シャドウェルによる自家生産馬で、昨年の欧州年度代表馬バーイードの1歳年上の全兄となるのがフクムだ。オーウェン・バローズ厩舎から2歳9月にデビュー。3歳8月にG3ジェフリーフリアS芝13F188y)を制したのを皮切りに、12F〜14FのG2、G3を5勝した後、5歳6月にG1コロネーションC(芝12F6y)を制し待望のG1初制覇を果たした。

 ところがそのコロネーションC後、後肢の骨折が判明し、シーズン末まで休養。復帰は困難かと見られた時期もあったが、今年5月にほぼ1年ぶりに戦線に戻り、サンダウン競馬場のG3ブリガディアジェラードS(芝9F209y)で、前年のG1英ダービー馬デザートクラウン(牡4、父ナサニエル)を2着に退けて優勝し復活。さらに、アスコット競馬場のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)も快勝し、2度目のG1制覇を果たした。

 この後は、一連のアークプレップをパスし、凱旋門賞に直行すると伝えられている。

 道悪の巧さには定評があるのが、フクムだ。4歳5月にグッドウッド競馬場でLRタップスターS(芝11F218y)を制した時や、4歳10月にアスコット競馬場でG3カンバーランドロッジS(芝11F211y)を制した時の馬場はSoft(重)だったし、直近の勝利となったG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSは、Good to Soft(稍重)だった。

 その一方で、今季の2戦目に予定していたロイヤルアスコット競馬場のG2ハードウイックS(芝11F211y)を、馬場が硬い(Good to Firm=硬良)ことを理由に、レース当日朝に出走取り消しをしている。凱旋門賞も、馬場が渋ればチャンスが増す馬だろう。

 続いてオッズ8.0倍〜9.0倍と、差のないオッズで3番人気に推されているのが、フランス調教の3歳馬フィードザフレイム(牡3、父キングマン)だ。

 G3トーマスブライアン賞(芝1400m)勝ち馬セイクリッドライフの半弟で、アルカナ8月1歳市場にて27万ユーロ(当時のレートで約3540万円)で購買されたフィードザフレイム。P.バリー厩舎から今年4月にデビュー。パリロンシャンでメイドン(芝2100m)、条件戦(芝2150m)を連勝後、7万2千ユーロ(約1091万円)の追加登録料を支払って出走したG1仏ダービー(芝2100m)は4着に敗れたが、続いて出走した7月14日のG1パリ大賞(芝2400m)を快勝。凱旋門賞と同コース・同距離の一戦を制したことで、評価が上昇している。

 G1パリ大賞の際の馬場状態はBon Souple (稍重)だったが、同馬を管理するパスカル・バリー師は、「もっと渋っても問題ない」とコメントしている。パリ大賞でフィードザフレイムの手綱をとったC.デムーロは、エースインパクトの主戦でもあるが、今後2頭が顔を合わせる際には、C.デムーロはエースインパクトに乗ることが決まっている。フィードザフレイムの次走は、9月10日にパリロンシャンで行われるG2ニエル賞(芝2400m)の予定。

 続いて、オッズ9倍〜11倍の4番人気に支持しているのが、イギリス調教の4歳馬ウエストオーバー(牡4、父フランケル)である。

 ジャドモントによるイギリスにおける自家生産馬で、G3ダーレークラブS(芝9F)勝ち馬モナークスグレンの全弟にあたるのがウエストオーバーだ。ラルフ・ベケット厩舎から2歳8月にデビュー。2歳時を3戦1勝の成績で終えた後、3歳緒戦のG3クラシックトライアル(芝9F209y)を制し重賞初制覇。直線で大きな不利があったG1英ダービー(芝12F6y)でも3着に健闘した後、G1愛ダービー(芝12F)を7馬身差で圧勝。世代の最先端に躍り出たかに見えた。

 ところがその後は、G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS5着、G1凱旋門賞6着と、高かった期待を裏切って3歳シーズンを終えている。4歳を迎えた今季、初戦のG1ドバイシーマクラシック(芝2410m)がイクイノックスの2着、続くG1コロネーションC(芝12F6y)がエミリーアップジョンの2着と、ひと息足りない競馬を続けた後、やや格落ちが相手だったG1サンクルー大賞(芝2400m)を制し、ほぼ1年ぶりのG1制覇。続くG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSでも、好メンバーを相手に2着に入り、能力の高さを再評価された。

 ここまでG1・2勝の馬場は、Good(=良)とBon Souple(=稍重)だった。2歳10月にはSoft(重)だったLRシルバータンカード(芝8F6y)で2着に敗れているし、Tre Souple(重)だった昨年の凱旋門賞は7着におわっている。陣営は、近年のような重馬場になるようなら、凱旋門賞は回避し、G1ブリーダーズカップターフ(芝12F)を目標にする可能性に言及している。

 ここまでの4頭が、オッズひと桁台。今年は日本から単騎参戦することになる尾関智人厩舎のスルーセブンシーズ(牝5、父ドリームジャーニー)を高評価しているのが大手のウィリアムヒルで、同社はGI宝塚記念(芝2200m)2着馬である同馬をオッズ17倍の6番人気に支持している。他社は概ね、21〜34倍となっている。

 9月に入ると各地で行われるアークプレップを通じて、情勢がどう推移していくかを注視したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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