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オーストラリアの名牝ウィンクスの産駒が1歳セールに上場

  • 2023年09月20日(水) 12時00分

垂涎の的になることは間違いなし


 2015年5月から2019年4月にかけて、33連勝という偉大な記録を残したオーストラリアの名牝ウィンクス(牝12、父ストリートクライ)にとって、初めての産駒となる2022年生まれの牝馬(父ピエロ)が、来年4月にシドニーで開催されるイングリス・イースター1歳セールに上場されることが発表され、大きな話題となっている。

 母ヴェガスショーガールの2番仔として、2011年9月14日にオーストラリアで生まれたのがウィンクスだ。父は、ダーレー・オーストラリアにシャトルされていたアメリカ産のストリートクライ。母ヴェガスショーガールはニュージーランド産馬で、LRソリロキーS(芝1400m)を含めて7勝をあげた他、G1サイヤーズプロデュースS(芝1400m)で4着に入った活躍馬だった。

 2013年1月マジックミリオン社が主催するゴールドコースト・イヤリングセールに上場されたウィンクスは、23万豪ドル、当時のレートで約2176万円で購買されている。セール全体の平均価格は10万6103豪ドルだったから、マーケットにおける評価はそれなりに高かったわけだが、将来の歴史的名馬としては、激安の仕入れ値だった。660頭いた上場馬から彼女を選択したのは、トップトレーナーのクリス・ウォーラーが信頼を置くエージェントのガイ・ムルキャスター氏(購買名はマジック・ブラッドストック社)で、ウィンクスはウォーラー師の管理下に置かれることになった。

 2歳シーズンの終盤となる2014年6月にデビュー。3歳初戦となったランドウィック競馬場のG2フュアリアスS(芝1200m)まで無敗の3連勝を飾り、将来を嘱望される存在となった。

 だが、ウィンクスはここで一度、壁にぶち当たることになった。4戦目となったランドウィック競馬場のG2ティーローズS(芝1400m)で2着に敗れて連勝が止まると、これを皮切りに4連敗。2015年3月にローズヒル競馬場のG2ファーラップS(芝1500m)を制し、5戦ぶりの勝利を手にしたが、その後は再び連敗。デビューから10戦を消化した段階での成績は、G2・2勝を含む4勝。この間、3度出走したG1では勝ち星なしと、決して悪い成績ではないが、一線級とは言い難いという、すなわち、せり市場における評価に等しい競走実績をあげていたに過ぎなかった。

 この段階で陣営はウィンクスの次走に、サンシャインコースト競馬場のG3サンシャインコーストギニー(芝1600m)という、近走に比べれば格下のレースを選択。1.3/4馬身差で制し、3度目の重賞制覇を果たしたこの一戦が、快進撃の始まりとなった。ウィンクスは続いて出走したドゥームベン競馬場のG1クイーンズランドオークス(芝2200m)を制し、3歳シーズンの最終戦で待望のG1初制覇を果たしている。

 4歳シーズンは7戦7勝。5歳シーズンは8戦8勝、6歳シーズンも8戦8勝、7歳シーズンも8戦8勝の成績を残し、33連勝という驚異的な記録を残したウィンクスの競走成績を、詳らかに記すスペースはここにはないが、2003年から2005年までG1メルボルンC(芝3200m)3連覇を果たしたマカイビーディーヴァ、2009年4月から2013年4月まで無敗の25連勝を達成したブラックキャビアと並び、今世紀のオーストラリアが送り出した歴史的名牝の1頭であることは、紛れもない事実である。

 国外における出走が一度もなかった点が、日本のGI天皇賞(春)に参戦したマカイビーディーヴァや、ロイヤルアスコット競馬場のG1ダイアモンドジュビリーSに挑んだブラックキャビアに比べ、「物足りない」との評価もあるが、G1コックスプレート(芝2040m)4連覇を果たし、G1・25勝というワールドレコードを樹立した実績は、燦然と光輝くものである。

 生まれ故郷であるクールモア・オーストラリアに帰り、2019年から繁殖生活に入ったウィンクスだったが、競走生活同様に、そのスタートは順調なものではなかった。

 初年度はアイアムインヴィンシブルを交配され、無事に受胎。授かった仔は牝馬であることが確認され、出産予定日は2020年10月と伝えられていたのだが、同年10月13日、繋養先のクールモア・オーストラリアは、死産だったことを発表。国民的ヒロインに訪れた突然の不幸を耳にした競馬ファンの間で、悲しみが広がった。

 その影響で、この年は種付けが見送られたウィンクスは、2021年の種付けシーズンに、同じくクールモア・オーストラリアで供用されていた2011/2012年シーズンの豪州2歳チャンピオン・ピエロを交配されて受胎。2022年10月7日に、ウィンクスにとっての待望の初仔となる牝馬が誕生した。

 ちなみに、2022年はスニッツェルを交配されたものの、不受胎に終っており、従って今のところ、現1歳の牝馬は、ウィンクスがこれまで出産した唯一の産駒となっている。

 これだけの名牝の産駒が、公の市場に出て来ることはあまりない。ましてや、名牝の初仔で、しかも、後継馬となる牝馬が上場されるというのは、世界のブラッドストック史を見渡しても、極めて稀な例と言えそうだ。同馬が、地元オーストラリアはもとより、欧米、中東、さらには日本の大手生産者たちにとって、垂涎の的となることは間違いない。

 ウィンクス自身が上場されたマジックミリオン・ゴールドコーストセールではなく、イングリス・イースターセールへの上場になった点について、生産者は、同馬が10月生まれと、それほど早い生まれではないことから、充分に成長の時間を設けることが出来るという理由で、1月開催のマジックミリオンではなく、4月開催のイングリスを選択したと説明している。

 ウィンクスの初仔がマーケットでどのような評価を受けるか、来年の4月が今から楽しみである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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