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「もう生きて会うことはないと思っていたのに」多くの人の思いが呼んだ奇跡 マイティドリームの会(2)

  • 2023年10月03日(火) 18時00分
第二のストーリー

ホーストラストでのんびり過ごすマイティドリーム(提供:マイティドリームの会)


マイティドリームが生きていた事に感謝


 ショウナンマイティの弟、マイティドリームは、地方競馬でも勝ち星を挙げることができないまま引退した。

 デビューからすべてのレースを見守ってきたYさんだが、自らが引き取って馬を不幸にしてしまってはいけないと引退後のマイティをあえて積極的には探さなかった。

 その馬がそんなに好きならば命を繋げるための行動を起こすべきではないか。そう思う方もいるかもしれない。だが馬を引き取って養うのは簡単ではない。30歳前後まで生きる可能性のある大動物を長年飼養するための経済的負担は相当なものだ。預託料以外にケガや病気をすれば獣医代もかかる。ましてやコロナ禍から今に至るまで、輸入乾草などの飼料代は高騰したままだ。下手をすると馬も人も共倒れになってしまう。それを考えると、Yさんの積極的に探さないという決断はその時点での彼女の経済状況を考えても正しかったのではないかと思うのだ。

 だがYさんはどこかでマイティドリームは生きていると信じていた。どこかの乗馬クラブにマイティドリームはいないか、ネットにアップされている写真に似ている馬はいないか、競技馬の登録がなされていないかなどマイティが引退してから半年以上、ネットを検索していた。するとSNSにマイティドリームの情報を見つけた。とある乗馬クラブにいたが、既にそこを退厩していることがわかった。やっと見つけたのに、また行方がわからなくなった。その事実を引退馬支援仲間のAさん(現マイティドリームの会発起人代表)に伝えた。そして「きっと生きているうちに会えるよと、2人で話をしました」

第二のストーリー

“きっと生きているうちに会えるよ” そう信じて…(提供:マイティドリームの会)


 事態が急展開したのは、そのすぐ後だった。マイティドリームが移動した乗馬クラブが判明したのだ。

 ショウナンマイティやマイティドリームを応援し、マイティドリームの行方を気にかけていた人が、Yさん以外にもいた。

 その1人が古くからの競馬ファンであり、引退馬支援にも力を入れていたHさんだ。引退馬支援をしている人たちは、どこかで繋がっていることが多々ある。YさんとHさんも引退馬を介して知り合いだった。

 タカラハニーという馬を支援する会(ハニーズサークル)がある。マイティドリームの会と同じく認定NPO法人引退馬協会のサポートのもと、立ち上げられた会だ。Hさんはその会の会員としてタカラハニーを支え続けていた。そしてある日、タカラハニーがいる乗馬クラブを訪れた。ハニーズサークルの発起人のMさんがHさんに同行していた。

「Hさんがディープインパクトのファンだと知っていましたので、最近このクラブにディープの子が来てマイティという名前みたいよ、とお教えしました」とMさん。

 Hさんは、父ディープインパクト、マイティという馬名にピンときたようで、クラブでマイティを担当しているインストラクターのもとに飛んでいった。そしてインストラクターを押し倒さんばかりの勢いで、その馬はマイティドリームなのかを確認した。

「はい、マイティドリームという競走馬名でした」

 インストラクターはそう答えた。それを聞いたHさんは

「もう生きて会うことはないと思っていたのに、こうやって生きていてくれたのね。本当に信じられない。嬉しい...。良かった」とその場に泣き崩れた。

「あの時のHさんの姿を目の当たりにして感動しましたし、マイティドリームが生きていた事に感謝しました」とMさんは当時を振り返った。

 一方この奇跡のような出来事を伝え聞いたYさんは

「マイティドリームの持つ運の強さと、Hさんをはじめ多くの人が探し気にかけていたという見えない力が、Hさんとマイティドリームを引き合わせてくれた」と感じたという。

第二のストーリー

乗馬クラブにて、タカラハニーと(提供:ハニーズサークル)


(つづく)



▽ マイティドリームの会(マイティドリームを支えてくださる会員様を募集中)
https://mighty-dream.jimdofree.com/

▽ マイティドリームの会X
https://twitter.com/mightydream0412

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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