▲昨年の菊花賞馬、アスクビクターモア(撮影:下野雄規)
昨年の菊花賞を制し、クラシック最後の一冠を手にしたアスクビクターモア。4歳となり今後のさらなる活躍に期待されるなか突然、天へと旅立ちました。「正直、今でも信じられない」と話すのは、アスクビクターモアの初入厩時から担当し、一番近くで過ごしてきた塩野晋助手(田村康仁厩舎)。今年も行われる菊花賞を前に、アスクビクターモアとの思い出をうかがいました。
(取材・文=馬切もえ)
“いずれまた会える日が来るんだよ”
──アスクビクターモアは初入厩時から担当されていたそうですね。
塩野晋助手(以下、塩野) はい。自分が担当させてもらうと聞いて入厩前に色々と調べたのですが、ディープインパクト産駒で、セリで高値がついたと知って緊張しましたね。ただ厩務員としてはそういう馬を担当させて頂けるだけでも名誉なこと。うれしかったです。
──実際に触ってみての印象は?
塩野 見た目には特別大きかったわけでもなく、まだまだ幼児体型。ただ性格は勝ち気でしたよ。
──勝ち気というと、元気があり余っているとか、ワガママとか?
塩野 いえいえ。とても行儀が良くて扱いやすいんです。でも自分のルーティーンとか、何か気になることがあったり、考える場面があると、人間主導では動かない。自分が納得してから動く感じですね。だから勝ち気というよりは、“自分を持っている馬”でしたね。
▲“自分を持っている馬”アスクビクターモア(撮影:下野雄規)
──具体的なエピソードはありますか?
塩野 そうですね…。例えば調教が終わって厩舎に帰ると、すぐに上がり運動はしませんでした。まず一旦、馬房に入ってゴロゴロして、水を飲んで。一服してから上がり運動をしていました。
──アスクビクターモアなりのこだわりがあったんですね。何か苦労したりしたことは?
塩野 それが本当にないんですよ。調教はマジメにこなすし、カイバもちゃんと食べてくれました。脚元の不安もなかったです。だからトレセンでの日々は毎日が淡々と過ぎていったような気がします。
──とてもファンの多い馬でしたが、塩野さんから見てアスクビクターモアのどんなところが好きでしたか?