より強い馬との対決により引き出される本当の能力
天皇賞(秋)をレコードで制したイクイノックス(撮影:下野雄規)
単勝130円の圧倒的な支持を受けたイクイノックス(父キタサンブラック)が勝ったのは当然の帰結だが、昨年が1分57秒5だったので、今年は1分57秒台前半ではないかと考えた人びとが多かった。いや、1分56秒台も可能ではないかと予測したファンがいたかもしれないが、1分55秒2の驚異的なJRAレコードが飛び出すと考えた関係者はいなかったはずである。
先導役を務めることになったジャックドール(父モーリス)の記録した前半1000m通過は「57秒7」。昨年のパンサラッサの逃げは「57秒4」であり、従来の天皇賞(秋)のレコードが刻まれたトーセンジョーダンの勝った2011年のレースの流れは、快速シルポートが飛ばし、前後半「56秒5−59秒6」=1分56秒1だった。
ジャックドールの逃げたレース全体は「57秒7−57秒5」=1分55秒2。このペースを味方に3番手追走のイクイノックス自身の前後半バランスは、あくまで推定だが「58秒4-56秒8」=1分55秒2。誤差は少ないと思える。同馬にはちょうどいいペースのレースだったのである。
そのイクイノックスを目標にスパートしたドウデュース(突然の乗り替わりは痛かった)、ヒシイグアス、ダノンベルーガなど、さらに粘り腰を発揮したガイアフォースも、後半になってもバテるどころか一段と加速したイクイノックスに最後は離されてしまった。2着馬と2馬身半差以上のイクイノックスの完勝である。
離れた後方10番手と最後方を追走したジャスティンパレス、プログノーシスは、数字の上では後半1000mをイクイノックスの56秒8と互角以上の伸び脚を記録して1分55秒台で乗り切ったことになったが、これは厳しいペースでレースの後半がスタミナと底力を問われるバランスになったから、といえる。ただし、この2頭の秘める総合力は評価しなければならない。
東京コースが改修される前、1999年にスペシャルウィークが1分58秒0のレコードで勝った時も、改修後、最初に1分58秒0で勝った2003年シンボリクリスエスの年も上位馬はあまり差がなかった。ウオッカが1分57秒2のレコードで勝った2008年など、2着ダイワスカーレット以下、5着まで0秒1差。また、トーセンジョーダンが1分56秒1の従来のレコードで勝った2011年も上位はほとんど差がなかった。
東京2000mで破格のレコードが記録される時、2着以下も勝ち馬によって秘められていた能力が引き出される傾向があり、トップホースの本当の能力は、より強い馬と対決しないと引き出されることが少ないとされる。多くの馬が快記録で乗り切った今回のようなレースが、日本馬全体のレベルアップを裏付けたレースなのだろう。
イクイノックスは、ジャパンCに出走の可能性が高い。今回よりさらにビッグネームが揃うはずで、もっと強い内容を見せてくれるかもしれない。大レコードが記録されたので、ちょっとJRAに注文。
各国の芝コンディション、コース形態、さらには距離の単位、記録の単位が異なるので、競馬の記録はめったに世界レコードとはいわないが、2000m1分55秒2を世界レコードと称えるには、さすがにもう各国と同じように100分の1秒単位の表記が求められる。
半世紀以上も前と同じ「1分55秒2。以下切り捨て」では、せっかくの大記録の正確(真実)性が問われかねない。例えば0秒09差は、写真判定にもならない約半馬身差である。