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【マイルCS】急遽の乗り替わりでも大胆な最後方一気は見事だった

  • 2023年11月20日(月) 18時00分

非の打ちどころがなかった


重賞レース回顧

マイルCSを制したナミュール(c)netkeiba.com


 当日の昼休みに急遽代打騎乗(R.ムーア→藤岡康太)が告げられた4歳牝馬ナミュール(父ハービンジャー)の大逆転が決まった。

 非の打ちどころがないほど素晴らしい状態に仕上げ、短い時間でテン乗りの騎手との打ち合わせを済ませた陣営の手腕も見事だったが、慌てる素振りもなく、レースで大胆な最後方一気を決めた藤岡康太騎手(34)の好騎乗が光った。

 ゲート入りの直前、ナミュールの首筋に優しく手を添えた仕草に、短時間でもうコンタクトが取れ、レース前に通じ合うところがあったように映った。

 互角のスタートを決め、中団追走かと見えたが、4コーナー手前で最後方を追走していたC.ルメール騎手のシュネルマイスター(父Kingmanキングマン)が横に並びかけてくるまで、まったく動きをみせていない。直線入口では最後方になった。そこから一気にエンジン全開。あの必殺の騎乗は、直線で鮮やかな追い込みを決めてみせるトップジョッキーの直線一気の極意そのものだった。

 レースの流れは「前半46秒5-(1000m通過58秒2)-後半46秒0」=1分32秒5。スローとはいえないが、追い込み馬向きのバランスではなく、まして後半3ハロンのラップは尻上がりの「11秒6-11秒5-11秒2」=34秒3だった。ナミュールの最後の1ハロンは推定10秒6前後に達する。この切れ味は、母の父ダイワメジャーを通したサンデーサイレンスの切れであると同時に、祖母の父フレンチデピュティ、3代母キョウエイマーチの父ダンシングブレーヴの長所を重ね合わせた爆発力と思える。管理する高野友和調教師が「この牝馬はいつか大変な才能を発揮する」と展望した通りだった。

 高野調教師の手がけた管理馬のGI勝利5勝はすべて牝馬。また、母の父ダイワメジャー産駒の制したGI、GIIはこれで8勝。すべて牝馬が記録している。

 人気のシュネルマイスターは、パドックでは悠然とした動きを示し、隙はないように映ったが、レース直前になって昂り、ゲートの中で立ち上がる気難しさを出してしまった。悪いことは重なるもので、スタートで右隣りの馬に寄られる不利。出遅れる形になった。

 太めに映る腹の出た体型はいつものことだが、これで全5勝は490キロ以下。それを超えると【0-0-1-3】となった。かつての名馬オグリキャップも500キロ超えは危険な兆候とされたが、研ぎ澄まされた身体に、あまりにも些細なことではあるが、自己最高タイの馬体重504キロはプラス材料ではなかったかもしれない。

 一旦は勝ったかと思わせたソウルラッシュ(父ルーラーシップ)は、テンがそう速い馬ではなく、内枠は有利ではなかったが、そこはJ.モレイラ騎手。少しずつ順位を上げて4コーナーで中位に進出。Cコースとはいえ芝状態があまり良くない最内は避けるように、馬群を割って抜け出した。自分の乗ったソウルラッシュの瞬発力を褒めると同時に、しごく当然のように「1頭、強い馬がいた」と勝ち馬を称えた。

 前半は後方から、巧みに順位を上げて直線は少し外に回りながら突っ込んだ3着ジャスティンカフェ(父エピファネイア)も、ソウルラッシュと同じように一瞬は勝つのではないかと見えたが、ゴール寸前に勝ち馬の爆発力に屈した。毎日王冠ではスローから上がりの速いレースで良さが生きなかったが、今回の自身の走破タイムは1分32秒6(上がり33秒6)。全体に少し時計を要する馬場で能力全開となった。

 完調には一歩と映ったダノンザキッド(父ジャスタウェイ)の5着はさすが。大外から伸びたイルーシヴパンサー(父ハーツクライ)も惜しかった。

 2番人気のセリフォス(父ダイワメジャー)は8着にとどまったが、数字が示すペース以上に前半に脚を使った馬が苦しくなる芝コンディションだった。それだけに、休み明けで、前半から気負った感じの正攻法が今回は裏目に出てしまったのだろう。このあと順調ならすぐに巻き返せるはずだ。

 上がり馬の3歳エルトンバローズ(父ディープブリランテ)は、これまでの自身のマイルの最高タイムが1分33秒6。毎日王冠の1600m通過も1分33秒9なので、現時点では少し不足かと思えたが、前半は古馬にもまれながら、1分32秒7で乗り切った今回の内容は立派。この3歳馬の展望は大きく広がった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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