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8戦8勝の最有力馬が回避 欧州最高峰の障害G1を前に発生したまさかの事態

  • 2024年03月06日(水) 12時00分

調教で10馬身以上遅れの入線 経過は良好も…


 ヨーロッパにおける障害シーズンのハイライトとなる「チェルトナム・フェスティバル」の開催が、来週に迫っている(3月12日〜15日)。

 4日間開催のメイン競走には、ハードル、スティープルチェイスそれぞれの分野における、2マイル路線と3マイル路線の最高峰となるレースが組まれている。この4競走のうち、3競走には確固たる軸馬がいて、大本命馬がどの様な勝ち方をするかを見るレースと言われていたのだが、開催前週になってこのうちの1頭に期せぬ事態が発生して、風雲急を告げる展開となっている。

 渦中の馬は、開催初日(12日)のG1チャンピオンハードル(芝16F87y)に向けて調整されていた、ハードル2マイル路線の絶対王者コンスティテューションヒル(セン7、父ブルーブレシル)だった。

 9馬身差で圧勝した昨年のG1チャンピオンハードルを含めて、ハードルデビュー以来ここまで8戦8勝、2着馬につけた平均着差が12.1/4馬身という同馬。2月27日(火曜日)に同厩のサージーノ(セン4)とクイックドロー(セン8)とともにケンプトン競馬場に輸送され、レースコース・ギャロップが行われた。本番を2週間後に控え、実質的な最終追い切りが行われたわけだが、ここでコンスティテューションヒルは、最後の直線に向くと急激に失速。併せた2頭に10馬身以上遅れてゴール板を通過することになった。

 見守っていたニッキー・ヘンダーソン調教師は、あまりの失速ぶりに当初、鼻出血を疑ったというが、上がってきたコンスティテューションヒルに出血は見られなかった。直ちにスコープを使った呼吸器系の検査が行われたところ、相当量の鼻水が出ていたことが判明。同馬が何らかの感染症に罹患している可能性が大きくなった。

 このニュースが伝わった段階で、同馬に2倍を切るオッズを提示していたブックメーカー各社は直ちに、同馬の単勝馬券発売を停止する処置を講じた。一方でヘンダーソン師は、ランボーンにある自厩舎に帰厩後、抗生物質を使用した治療を開始したことを明らかにしている。

 コンスティテューションヒルが、いわゆる「ダーティー・スコープ」に見舞われたのは、実は今年に入って2度目のことだった。今季初戦となった、12月26日にケンプトンで行われたG1愛クリスマスハードル(芝16F)を9.1/2馬身差で制した後、同馬の次走に予定されていたのが、1月27日にチェルトナムで行われたG2ユニベットインターナショナルハードル(芝16F127y)だった。この時も、レース2週前に行ったスコープの結果が芳しくなかったことから、同競走を回避。G1チャンピオンハードルには、2カ月半の休み明けで向かうことになったのである。

 不測の事態が起きた翌日(28日・水曜日)、前夜から馬の状態は落ち着いており、夜の飼葉も朝の飼葉も完食。体温も平熱であることを確認した段階で、ヘンダーソン師は、3月1日(金曜日)に改めてスコープ検査を行い、馬の状態を確認するとコメントしている。

 この段階では、チャンピオンハードル出走に向けて、明るい兆しが見えたようにも思えたのだが、暗雲がさらに黒く低く垂れこめたのが、29日(木曜日)だった。この日の朝に行った血液テストの結果も、コンスティテューションヒルが何らかの感染症を患っていることを示していたのである。

 依然として平熱を保ち、咳もしていないが、この時点でヘンダーソン師は、1日(金曜日)に行うスコープ検査の結果が仮に良いものであっても、4日(月曜日)に改めて血液テストを行い、ここで劇的な改善が見られない限り、チャンピオンハードル出走への見通しは立たないとの見解を明らかにした。

 軽い運動は続けていたコンスティテューションヒルは、1日(金曜日)の調教後、予定されていた喉のスコープ検査を実施。鼻汁の症状はほとんど解消し、白血球のレベルも水準値に戻っていることが確認された。ヘンダーソン師は、これは明らかに良い兆候だとしながらも、4日(月曜日)に行う血液テストが分水嶺になると、改めて強調した。

 こうして迎えた4日(月曜日)。コンスティテューションヒルに対して行われた血液テストは、主要な3つの指標の全てが、4日前に比べれば明らかに改善しているものの、直ちに本格的な調教を行い、来週火曜日(12日)のレースに出走させるレベルには至っていないとして、ヘンダーソン調教師はコンスティテューションヒルのチャンピオンハードル回避を正式決定し、文書でこれを公表した。

 これを受け、ブックメーカー各社は、アイルランドにおけるこの路線の最強馬ステイトマン(セン7、父ドクターディーノ)を、チャンピオンハードルの新たな本命馬に指名。2月4日にレパーズタウンで行われたG1愛チャンピオンハードル(芝16F)を5.1/2馬身差で快勝し、8度目のG1制覇を果しての参戦となる同馬に、1.3倍〜1.4倍のオッズを提示している。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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