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キアラン・ファーロン復活

  • 2007年06月26日(火) 23時50分
 6月24日、フランス・パリ郊外のサンクルー競馬場で、フランスにおける上半期の総決算となるサンクルー大賞(G1・2400m)が行われ、イギリスのマイケル・スタウトが送り込んだマウンテンハイ(父デインヒル)が、圧倒的1番人気に推されていた昨年の欧州3歳牝馬チャンピオンのマンデシャを斥けて優勝。5歳の春にしてG1初制覇を飾った。マウンテンハイは、BCフィリー&メアターフをはじめG1・3勝のイズリントンや、ドイツのG1バイエリッシュズヒトレンネン勝ち馬グリークダンスらの弟という超良血馬で、本格化した今後は欧州のこの路線における台風の目になりそうだ。

 そして、サンクルー大賞における最大のハイライトは、勝ち馬の手綱をとっていたのがキアラン・ファーロンであったことだ。御存知のごとく、英国のリーディングを6回獲得している当代有数の名手であると同時に、数々のトラブルを起こして現在もイギリスでの騎乗を差し止められている、競馬サークルきってのお騒がせ男である。

 彼が今抱えている最大のトラブルは、騎乗馬に関する情報をブックメーカーに流していた容疑で起訴されている件で、少なくとも9月に予定をされている公判の開始までは、イギリスでの騎乗は再開出来ない状況だ。

 そういう立場に置かれたのが昨年の7月のことで、以後も騎乗契約を結ぶクールモアの本拠地アイルランドやフランスでは騎乗を続けていたのだが、そうした国々での騎乗も差し止められたのが、昨年11月のことだった。昨年7月9日にシャンティー競馬場で行われたG1ジャンプラ賞の後、騎手に対して抜き打ちで行われた薬物テストで、ファーロンから採取した血液からコカインの成分を検出。入念な追跡調査の結果、フランスの主催団体であるフランス・ギャロが薬物使用のかどでファーロンを12月7日から半年間の騎乗停止処分にすると発表したのである。アイルランドの主催団体もこれにならったため、遂にファーロンは完全に騎乗機会を失ってしまったのだった。

 06年12月7日から半年ということは、今年(07年)の春のクラシックをほぼ棒に振ることを意味する。これでファーロンもクールモアの主戦の座を解かれ、「一巻の終わり」かと思われたのだが、あにはからんや。クールモアは、無罪を主張する本人の言葉を信じ、裁判においても全面的なサポートを約束するとして、ファーロンを解雇しなかったのである。ファーロンもこれに応えるかたちで日々の調教に汗を流し、復帰に備えたのであった。

 ファーロンが競馬場に帰ってきたのは、6月7日。ティッペラリー競馬場で行われたイヴニング開催で今季初めて騎乗し、第1レースで早速初勝利。そして復帰後3回めの週末となった6月24日に、フランスで久々のビッグレース制覇を果たしたわけである。

 行状をさておくとして、キアラン・ファーロンが抜群の手腕を誇る乗り役であることは、依然として動かしがたい事実であり、この男が帰ってきたからには、クールモア・チームが俄然上げ潮ムードに乗っても何ら不思議ではない。まずは今週末、カラ競馬場で行われるアイルランドダービーで、前走英国ダービーではジョニー・ムルタが乗って2着だったイーグルマウンテンに騎乗予定となっている。

 復活した名手がどんな手綱さばきを見せるかに注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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