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ブリーダーズCの悲喜こもごも

  • 2007年10月29日(月) 23時02分
 ニュージャージー州モンマスパークで行われた初めてのブリーダーズC。開催地以外にも、3レースの新設と、初めての2日間開催という、新基軸が多かった今年の北米競馬の祭典は、史上稀に見る悪天候に、文字通り水を差された結果となった。

 24日(水曜日)夜から降り続いた雨で、馬場はダートが26日(金曜日)・27日(土曜日)の両日ともに、最も水の浮いた状態を示すSloppy。芝が、26日(金曜日)がYielding(やや重)で、27日(土曜日)がSoft(重)。ブリーダーズCでなかったら、開催中止も検討されていたと言われるほどの、極めて悪い状態となった。

 入場人員は、26日(金曜日)が27,803人で、27日(土曜日)が41,781人。土曜日について言えば、最低でも4万5000人と踏んでいた主催者にとっては残念な結果に終わったが、あの天候を考えれば致し方のない数字だと思う。

 トラックコンディションが尋常ではなかったわりには、人気に推された実績馬が力を発揮する競馬が多く、また、フィリー&メアターフで英国から遠征したシンプリーパーフェクトがコーナーを曲がり切れずに逸走したことを除けば大きなアクシデントもなく、まずまずの開催かと思っていたら、最後の最後に、ジョージワシントンの故障・安楽死処分という、最悪の悲劇が起きてしまった。

 北米獣医師界の第一人者ラリー・ブラムレージ氏は、馬場と事故には因果関係は無いと説明していたが、見ていたファンとしては「良馬場だったら」と思わざるを得ない。授精能力が無いと判った段階で、ジョージワシントンという実に魅力的なキャラクターをもったサラブレッドの歯車が、微妙にずれてしまったのだろう。合掌。

 北米では今、2日間開催となったことの是非が問われているが、私自身にとって新設3レースは、いずれも楽しめる内容だった。

 まず、BCフィリー&メアスプリントが出来たことで、BCスプリントが10頭立て(登録は11頭で、1頭取り消し)という手頃な頭数に収まったのは僥倖だった。これまで、BCスプリントと言えば必ずフルゲートで、乱戦となって荒れるケースが多かったのだが、今年は1番人気の推されたミッドナイトルートが後方からの追い込みを決めて優勝と、結果も順当なものとなった。賞金総額に現在あるような格差(BCスプリント200万、BCフィリー&メアスプリント100万)があれば、今後もし強い牝馬のスプリンターが出現すればBCスプリントに廻るはずで、フィリー&メアスプリントの新設は大正解だったと思う。

 これまでだったら、出走馬の半数はBCクラシックに出ていたはず、というメンバーが集まったBCダートマイルでも、見応えたっぷりの攻防が見られた。さすがはダートの本場アメリカである。この路線の層が厚いと、改めて痛感させられた。来年以降、相手関係を見ながら、ダートマイルとクラシックにダブル登録する馬がたくさん出てくると思われる。

 今年のブリーダーズCに関して、もう1つ特筆すべきことは、2歳のジュヴェナイルフィリーズに4頭、ジュヴェナイルフィリーズにも同じく4頭、「ダート未経験」という馬が出走してきたことだった。言うまでもなく、オールウェザートラックの普及に伴って生じた事態だが、これまでだったら、チャンピオンを決める両レースに「ダート未経験」の馬が出てくることなど、ほとんどありえないことだった。

 来年のBCの舞台は、いよいよ、メイントラックがオールウェザーのサンタアニタだ。関係者がこれをどう受け止め、どのような結果が出るか。ひょっとすると、北米競馬の将来を左右することにもなる開催となりそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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