第二のストーリー 〜あの馬はいま〜/佐々木祥恵

【読者リクエスト】石狩紀行 功労馬トリオを訪ねて(2)『“南関東の哲学者”アブクマポーロ』/動画

2017年03月21日(火)18時01分

注目数:61人
第二のストーリー

▲生涯獲得賞金8億円という当時の最高額を記録したアブクマポーロ


(前回のつづき)

通算32戦23勝、重賞14勝という輝かしい成績


 シゲルホームランの隣の馬房には、アブクマポーロがいる。彼らのいる厩舎に案内してもらう前に、アブクマポーロの性格について斉藤さんに質問すると「見たらわかるわ(笑)、ジーッと黙ってる(笑)」と返ってきた。

 斉藤さんの言葉通り、馬房の中のアブクマポーロは、黙っていて穏やかだった。あの雄々しく力強かった競馬場での姿からは想像がつかないくらいに、優しく可愛らしい瞳をしていた。


 アブクマポーロ。1992年2月27日に北海道門別町(現・日高町)の高澤俊雄さんの牧場に生まれた。父はクリスタルグリッターズ、母はバンシユーウエー、その父はペールという血統だ。1995年5月に大井の荒山徳一厩舎からデビューして、初戦を勝利で飾った。

 大井の鶴田憲吉厩舎を経て、1996年には開業したばかりの船橋の出川克己厩舎へと転厩した。それと前後して、長期休養明けの一戦だった白鳥座特別を皮切りに7連勝とアブクマポーロは快進撃を続けた。

 7連勝目の大井記念は1番人気に見事応えての重賞初制覇を果たし、続く帝王賞(GI)では連勝は止まったものの、中央勢を退けて2着に入り、交流重賞でも通用する実力を証明した。その後もアブクマポーロの勢いは衰えず、1997年11月には、中央の東海ウインターS(GII)に出走。堂々の1番人気に推され、トーヨーシアトルやエムアイブラン以下を抑えて優勝している。

 7歳(旧馬齢表記)になってからはさらに充実度が増し、川崎記念(GI)、ダイオライト記念(GII)、かしわ記念(GIII)、帝王賞(GI)、東京大賞典(GI)などを制し、ダート王者として君臨した。地方馬として唯1頭の中央GI(フェブラリーS)の勝ち馬のメイセイオペラとは、アブクマポーロが7歳の1998年に4回対決して、3勝1敗とアブクマポーロに軍配が上がっている。

 8歳になっても力の衰えは見られず、前年に続いて川崎記念とダイオライト記念を連覇したものの、この後、左後肢を捻挫。結局復帰でないまま、通算成績32戦23勝、重賞14勝の輝かしい成績を残して競走生活にピリオドを打った。

とにかく大人しいアブクマポーロの意外な弱点


 現役を退いたアブクマポーロには、その遺伝子を残すべく種牡馬の道が用意されていたが、種牡馬として成功したとは言い難く、2005年に乗馬へと用途変更となって新冠町のホリシリ乗馬クラブへと移動。乗馬として過ごしたのちに、余生を過ごすべく2013年に石狩市のオーフルホースコミューンへとやって来たのだった。

「アブクマは、ホロシリから別の場所に行くはずだったんだけど、行く直前でその話がなくなって、ウチに電話が来たんだよね。8億も稼いで、ものすごく活躍している馬だって知らなかったから」

第二のストーリー

▲斉藤武彦さんに甘えるアブクマポーロ


 斉藤さんの言葉を借りれば普段は「黙ってる」というアブクマポーロだが、馬がそばを通ると威嚇するなど、馬に対してはうるさい面も見せるという。お隣のシゲルホームランとの関係もまた面白い。

「アブクマを先に洗い場に出すと、シゲルが鳴くんだわ。シゲルは寂しがりだね。2頭は仲が良いんだけど、変な時に仲が悪かったりする(笑)。2頭とも元気だけど、シゲルの方が元気一杯だね(笑)。2つ年上なんだけどね。裏に放牧したら、アブクマはコロッと転がって、立ち上がってそれで終わり。シゲルは、ヒューンと飛んだり跳ねたりして走り回ってるわ(笑)。

 シゲルはその辺にある笹も食べるよ。餌やったら、やっただけ食べてるしね。リンゴはあまり好きでないみたいだけど。アブクマは飼い葉はきれいに食べるけど、乾草はあまり食べないね」

第二のストーリー

▲アブクマポーロ(手前)とシゲルホームラン(奥)


 当然のことながら、彼らにはファンも多い。

「シゲルは福井から、アブクマは福岡から毎年のように会いに来るファンがいるよ。福井の人はホロシリでシゲルに何回か乗っているって言ってたわ。2頭とも人懐っこい方だね。シゲルは甘噛みするけど、アブクマはやっぱり黙ってる(笑)。功労馬助成金のジャパン・スタッドブック・インターナショナルの人が来て写真を撮影する時にも、ちゃんと立って動かないから『これは楽ですね』って。他の馬はチョロチョロするのもいるしね。アブクマは写真馴れしているんだよね」

 普段は大人しいアブクマポーロも、歯を抜かれそうになった時だけは様相が違った。

「奥歯が割れているんだよね。それで麻酔をかけて抜いてもらおうと思ったんだけど、うるさくてダメ。獣医に勘弁してくれって言われてね。前脚で叩いてくるし、あんなにうるさいとは思わなかったわ。だから自然に歯が取れるようにと、ちょっと固めのヘイキューブを食べさせてるんだよね」

 オーフルホースコミューンには、現在サラブレッドとアングロアラブ併せて7頭にポニーが2頭、犬と猫がそれぞれ2匹に、さらには鶏までいる。この鶏が産む卵のおかげで、かれこれ1年半ほど、卵を買わずに済んでいる。

「乗馬クラブの会員はそんなに多くはないよ(笑)。特にPRもしてないしね」と斉藤さんは飄々としているが、およそ30年以上、石狩の地で乗馬クラブを続けてきたのだから、きっと何か秘訣があるのだろう。

 そして斉藤さんは、なぜか車の免許を持っていない。オーフルホースコミューンのある石狩市の北生振(きたおやふる)は車がないと不便そうだが「もう慣れたよ。会員さんとか誰か来たら買い物に連れて行ってもらったりしているから」と平然としているが、これがまた斉藤さんらしくも感じた。

 このあたりには、キツネやキジ、鹿もいる。「何年か前に鹿が馬場に入ってたこともあったよ」。さらにもっと奥に行くと、ヒグマも出没するらしい。厳しくも豊かな自然の中に、馬たちは日々過ごしているのだ。

 そんな馬たちの暮らしを支えるものの1つに、麦乾(ばっかん)がある。麦乾は厩舎の敷料、つまり寝藁として使用される。一旦厩舎を出て倉庫に案内された。そこには巨大な麦乾と食用の乾草の牧草ロールがいくつも積み重なっていた。

 あとをついてきたヤマトに「それっ」と斉藤さんが号令をかけると、ヤマトは麦乾に飛び乗り、ロールの上に誇らしげに鎮座した。間近で見る巨大な牧草ロールは、かなり迫力がある。さすが北海道と妙に感心してしまった。

第二のストーリー

▲高く積み上げられた麦乾のロール、その上に飛び乗って遊ぶのが好きなヤマト


 再び厩舎に戻り、1頭1頭馬を紹介してもらう。その中に聞き覚えのある馬名を持つ馬がいた。

(次回へつづく)


※アブクマポーロ、シゲルホームラン、フォーカルポイントは見学可です。

オーフルホースコミューン

所在地
〒061-3362 石狩市北生振602-3

見学期間
年間見学可能(月曜は休場のため不可、月曜が祝日の場合は翌日が休場)
※年末年始訪問不可

見学時間
夏 10:00〜12:00 13:00〜17:00
冬 10:00〜12:00 13:00〜16:00

必ず事前に連絡して、許可を得てから訪問してください。訪問をできなくなった場合も、事前に連絡してください。事前連絡は、3日前までにお願いします。

※詳細は最寄りのふるさと案内所まで。
http://uma-furusato.com (競走馬ふるさと案内所)

団体(1グループ10名まで)の場合は1週間前までに問合せ。なお 12/31〜1/3はお休みです。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コラムニストプロフィール

佐々木祥恵
佐々木祥恵
北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

佐々木祥恵『第二のストーリー 〜あの馬はいま〜』バックナンバー