ステレンボッシュ最善を尽くすも位置取りが勝敗を分けたか
オークスを制したチェルヴィニア(撮影:小金井邦祥)
引くに引けない形になったとはいえ、大差18着ヴィントシュティレ(父モーリス)と、大差17着ショウナンマヌエラ(父ジャスタウェイ)の先手争いでスタートした2400m。記録に残る内容は前後半の1200m「1分09秒8-1分14秒2」=2分24秒0のハイペースとなるが、これはベテラン騎手2人にしてはたまたまだろうが、失敗だったか。
実際のペースメーカーは、大きく離れた3番手追走の形になった5着ランスオブクイーン(父タリスマニック)の刻んだ推定前半1200m通過「1分12秒5前後」くらいだったと思われる。
勝ったチェルヴィニア(父ハービンジャー)と、二冠達成ならず2着にとどまったステレンボッシュ(父エピファネイア)は、中団より少し後方のまったく同じ位置。余裕十分に後半のスパートに備えるポジション。お互いを確認できる位置だった。
ステレンボッシュの誤算は、結果的にだが、前半の(先行馬)の速すぎるペースを分かっていたので、4コーナー手前でスパートを少し待って位置が下がったこと。実際には多くの馬にとってはハイペースではないから、あっという間に馬群は凝縮し、外にはチェルヴィニアを中心に馬群ができていた。
ただし、そこで内寄りに進路を取ったのは失敗ではない。空いていたスペースから鋭く抜け出し、一旦は先頭に躍り出ている。勝利の見えた瞬間だった。ところが、周囲には有力馬は1頭も存在せず、1頭だけになってしまった。これまで直線に向いて単騎先頭に立ってレースをしたことは一度もない。並んだ相手を差し切る形がほとんどだった。
そこから、苦しくなってヨレたのか、外から伸びている馬に馬体を接近させようとしたのかは不明だが、クイーンズウォーク(父キズナ)、さらにはまだ粘っていたランスオブクイーンの外から猛然と伸びたチェルヴィニアに抵抗する余力はなかった。
桜花賞後の立て直しに成功したのは、多くの記者が「もっともデキがいいのはC.ルメール騎手に戻ったチェルヴィニアではないか」とささやき合ったように、素晴らしい気配でシャープだった。4コーナー手前で内にいるステレンボッシュを見ながら、包まれる危険を避けるように外に回った鞍上の判断も結果はベスト。直線のレースラップは「12秒2-11秒5-11秒4」。坂を上がって最後まで鋭さを失わなかったのがチェルヴィニアだった。
チェルヴィニアの母チェッキーノ(父キングカメハメハ)は2016年オークスのクビ差2着馬。無念を晴らした。半兄は新潟記念などの現4歳ノッキングポイント。母は現在11歳。まだ活躍する産駒が続出するはずだ。
これでC.ルメール騎手はオークス9戦【4-2-0-3】。この8年間で6回も連対している。史上最多は嶋田功騎手の5勝だが、近いうちに記録更新までありえる。
3着ライトバック(父キズナ)は、パドックからスタートまで落ち着きを示す時間もあったが、まだまだ若い気性で高ぶるシーンが何度もあった。それでもレースでは折り合いを欠くシーンはなく、最後は狭くなったところを割って伸びる勝負根性をみせた。秋には先着された馬に追いつくシーンがあるように思える。
ゴール寸前まで見せ場を作った4着クイーンズウォークは、最後に少し鈍ったが、道中はスムーズにポジションを確保し、正攻法のレースができた。まだまだ成長する。
未勝利を勝ったばかりで14番人気で小差5着のランスオブクイーンは見事。上位に人気の有力馬が並ぶ中、もっとも苦しい先行策で粘ったから大健闘だった。
スウィープフィート(父スワーヴリチャード)は、パドックで直後のライトバックより落ち着きを欠くシーンがあった。そのロスと、1600mまでの経験しかない弱みが最後になって出てしまったが、祖母スイープトウショウも実際には遅咲きの一面があった。
今年のオークスには、ハイレベルのレースを経験し、かつ、快走してきた有力馬が多かった。もちろん、好レースだったが、こと2400mのオークスとすると、リバティアイランド、デアリングタクト、ラヴズオンリーユー、アーモンドアイ…などのように「これはすごい」というにはもう一歩だった印象は残った。