流通してこそ金の意味があると言い聞かせている。“金は天下の回り物”であって、人の手から人の手へと世の中を巡りめぐって行くから、やがては自分の手元にもどってくることになっている筈なのだ。競馬場に居ると、そこがひとつの社会のように見え、いったん手元をはなれたものが、レースを終えてもどってくる場合、それがそこにいる誰かの金だと考えると、その“金は天下の回り物”を実感できる。そして、あっという間に、また手元をはなれていく。足早に動き回る様は、正に“お足”なのだ。昔の人はよく言ったものだと思う。
このようにお足は、小回りを利かせて動き回るので、元来が高額である筈がない。競馬場で動き回るお足が多ければ多いほど、そこに的中者が多くいることであり、活気が出てくる理屈で、高額だと、一度の勝負で動きが止まってしまうことが多いのではないか。
このお足、いくら小額でも“金の無いのは首の無いに劣る”と言うように、有るにこしたことはない。競馬に行ったら、どうやってそのお足を長く持たせるか、そこが肝心だ。
今も昔も“お足が無くては動かれず”であって、どんな理屈を述べて立てても、流通させるお足が手元に無いことには始まらない。
午前中に馬券を買うとき、“さあ、行ってらっしゃい”とお足を送り出し、“なるべく早くもどって来いよ”と言葉を添える。中々もどって来ないときには、“なんだ、どこへ行ってるんだ。いつまでも油を売ってないで、とっとと顔を見せな”とまた注ぎ込む。天下の回り物なのだから、いつかはもどって来る筈なのだ。少々なら送り出したままでも我慢出来るのだが、少しは手元にもどって来ないと面白くない。お足なのだから、小額の的中でも身分相応でいい。それくらいの気分で丁度いいのである。そして、万が一もどってこなかったら、その日は立派な社会貢献が出来たと、さっぱり割り切るのが良い。やせ我慢。
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