前回のコラムでは、血統は傾向を表すことが多いが、各馬の正確な適性をつかもうと思えば馬体を見ることが必要だということを語りました。
例えば、
ディープインパクトとその全兄の
ブラックタイド。この2頭は父も母も同じ全兄弟なのですが、2頭とも能力の次元もそうでしたが、体格から筋肉の質、レースのパターンまで全く違いました。しかも、この2頭は共に池江泰郎厩舎で調教され、育った環境まで同じだったにもかかわらずです。
前者は正に父サンデーサイレンスの良いところを受け継いでいました。サンデーの良さは、筋肉のしなやかさ、伸縮の早さと、骨格の軽さです。スペシャルウィーク、ネオユニヴァース、ゼンノロブロイなど他の偉大なサンデー産駒たちも皆この特徴を受け継いでいます。
逆に、ブラックタイドも良い馬でしたが、先述のサンデーサイレンスの良い部分を完全に受け継いでいるかというと、そうではありませんでした。こちらの方は、弟と違って母系の特徴が強めに出ていたのです。サンデーの系統は、瞬発力に秀でたタイプが多いのですが、この馬に関しては母系のノーザンダンサーの特徴が出ていて、長く良い脚を使って勝つタイプでした。
このように、例え全兄弟であっても適性や能力に差があり、父親が同じでも一概に「この血統はこういう適性」ということは決め付けられないのです。だから馬体を見て、それぞれの馬の個性をキッチリと把握することが重要なのです。
しかし、前回も書いたように血統で傾向を把握することは、馬を見るに当たってはかなり大きな補助となります。前回は新種牡馬のネオユニヴァースの傾向について書きましたが、今回はもうちょっとさかのぼって、把握しておいた方が良い系統の傾向について見ていきましょう。これらの系統の傾向と馬体を照らし合わせながら見ると、その馬が本来活躍すべき条件が手に取るように分かるわけです。
まず今回は、現在の日本競馬において完全に主流血統となっているヘイルトゥリーズンの系統について見ていきましょう。この系統は主にロベルトとヘイローに分かれます。では、これらの大きな特徴と、それぞれの主な種牡馬の簡単な特徴を挙げておきます。
【ヘイローの系統】
骨量・筋肉量が共に少なめで無駄のない体付きの馬が多い。瞬発力で勝負するタイプが多い。
・サンデーサイレンス
アグネスタキオンやスペシャルウィークなど、直仔達のそれぞれの傾向については他の回で解説します。大きな特徴は筋肉の伸縮スピードの早さ。それが強烈な瞬発力に繋がっている。小回りコースなどよりは府中や京都などの広いコースで力を発揮する産駒が多い。
・タイキシャトル
脚の細い産駒が多くて、軽さで勝負すタイプが多い。サンデーの系統とは違い、腰高の先行型スピードタイプが多い。その分、距離もマイル辺りまでに適性のある馬が多くなっている。
【ロベルトの系統】
ヘイローと比べると骨量、肉量共にかなり多くなっている。それでいて筋肉はしなやかで収縮が強いので、ヘイローほどではないが、スピード馬場にも対応できる資質を持っている。ただ、骨量・筋肉量が共に多いので、どちらかと言うとパワー勝負の方が向いている感はある。
・ブライアンズタイム
自身はもう衰えてきたが、産駒のタニノギムレットがダービー馬ウオッカを出したりと、その血筋は安定感こそないが怪物級の馬を輩出する傾向にある。グラスワンダーやシンボリクリスエス程のボリューム感はないが、これら2頭の産駒よりも伸縮が強く柔らかい筋肉を持つ傾向があり、どちらかと言うと良い脚を長くというよりは瞬発力型。府中などの広いコースの方が向いている。
・グラスワンダー
ボリュームの多い筋肉を持つ馬が多いが、意外と脚などは細めで、ある程度速い上がりタイムなどにも対応できる馬が多い。ただ、溜めて瞬発力勝負というよりかは、長く良い脚を使うタイプの馬が多い。府中などの広いコースよりかは中山の様なコースの方が合っている。
・シンボリクリスエス
とにかく父親に似てゴツイ馬が多い。初年度からサクセスブロッケンが出たように、ダートでも通用するパワーを持っている。骨が太く、筋肉量も非常に多いので、芝ではスピード不足になりがち。パワーの要る阪神コースなどで勝つことが多い。逆に、たまに脚などが細く出るタイプもいるので、そのようなタイプは京都などのコースでも好走することができる。
以上が、主なヘイルトゥリーズン系種牡馬の特徴です。これらの傾向を踏まえながら馬を見ていけば、よりその馬の特徴を把握することができるでしょう。
【次走の注目馬】
トップカミング(デイリー杯2歳S・7着)
イレ込んでチャカチャカしていたのはいつも通り。マイナス材料ではあるが許容範囲だろう。馬体は軽さが目立ち、メンバー中でも最もスピードがありそうな印象を受けた。レースでは出遅れて4角で詰まったりとスムーズさを欠いた。距離はマイル辺りまではこなせるが、ベストは1200mぐらいでスピードを生かす競馬だろう。距離短縮で勝負したい。
エイシンダッシュ(新馬戦・4着)
アドマイヤコブラを筆頭に、ほとんどの馬が明らかに太い仕上げのパドックで、1頭だけ締まりのある馬体を見せていたので期待していたが、レースでは1コーナーで外に逃げようとしたり、かなり幼い面を出して力を出し切れなかった。しかし、パドックではヤンチャな面も見せなかったし、これは使ったことで変わってきそう。慣れが見込める次走は買いだろう。
テイエムターザン(新馬戦・7着)
芝のマイル戦でデビュー。仕上がりはもう一息という感じだったが、返し馬のフットワークが良く、ある程度の素質を感じた。レースではまだフワフワ走っていて、ややチグハグな内容。それでも先行してある程度見せ場は作っていた。叩いたことで体が締まるだろうし、レース慣れも見込める。同じような条件に出走してくればチャンスは十分にある。
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