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競馬は群衆の中にいてこそ

  • 2008年11月26日(水) 23時50分
 それぞれの顔のうしろは、互いに覗くことはしない。それが生きていく上でのルールみたいなものだ。競馬場は、そのことがしっかり生きている場所だと思う。あの群衆とともにいると、しかも、レースに集中していると、隣りがどんな気持でいるか訊ねるひまがない。もし誰かに話しかけられたら、笑顔を返すことになる。

 どんなに金持になろうとも、どんなに貧乏であろうとも誰も知らない。笑って、背負うものは背負い、腹膨れる思いなら気づかれぬよう、そっと群衆の中にあってともに時間の流れに身をまかせていく。

 少し異なるのは、競馬場の中では浮き沈みが激しいことだろう。普段の生活では有り得ない刺激を味わうことが多く、それが魅力と感じる。それでも、自分のこころの中を覗くものはいないから、心地よく思えるのだ。

 競馬は、群衆の中にいてこそとは言えないだろうか。多くが、忍耐を競うところであり、そこから生まれるユーモアがたまらない。

 みんなが気持よさそうなので、実に溌剌としている。それぞれが、自分に合った、誰にも計算することの出来ない価値を見い出しているからだろう。そんな場所が、他にあるだろうか。ともすれば、自分がどんなであるかさえ知らないでいることがある。忘我の境なのだ。

 考えてみると、実に面白い。あの忘我の境にみんなが入ることがあるかもしれないのだから。ホームストレッチに入ったときの喚声は、尋常ではない。どこからあんな声が出るのか。群衆の中にいないと、とてもあの声は上げられない。

 それもこれも、互いに顔のうしろを覗かないからだとは思えないだろうか。競馬場にいると、どうであればみんな心地いいかが薄々わかってくる。そして、ジャパンC。如何なる思惑を抱こうとも、誰も知ろうとはしない。それでいいのだから、競馬はいい。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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