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JBBA生産育成技術者研修(課程)

  • 2008年12月16日(火) 23時49分
研修所

 日高には、BTCと並んでJRA関連の施設がもう一つある。新ひだか町静内のJBBA日本軽種馬協会静内種馬場である。この一角にあるのが平成2年秋に発足した「研修所」だ。

 「軽種馬生産、育成関連の仕事に就業するための知識、技術を約一年間で習得することを目的」に始まった研修制度で、BTCよりも2年早い。

研修課長の山口直人氏

 当初は半年間の研修だったらしいが、より高度な知識と技術を習得させるために、途中より1か年に延長された。現在は第30期生、8名の研修生がここで学んでいる。研修課長の山口直人氏にお話を伺った。

「スタッフは教官3名に、研修生8名、乗用馬23頭で1年間かけて研修を実施しています。研修生の年齢は20代が中心で、最近は高校卒業後すぐここに来る研修生が少なくなりました。一度、どこかの牧場に就職し、その牧場から研修生としてここに送られてくる例もあります。定員は12名ですが、最近はやはり志願者が減ってきており、10年前と比べると隔世の感がありますね」

 最も受験者が多かったのは10年前だという。「当時は全国から200名くらいの応募があり、東京だけでも80名ほどいましたから、出張して面接するだけでも3日間たっぷりかかったものです」(山口課長)

 基本的に研修内容はBTCと似通っているが、山口課長によれば「こちらは生産に関する知識や技術も力を入れている」とのこと。研修所に隣接してJBBA静内種馬場があり、「BTCよりは幅広く研修できるところが大きな違い」だという。

研修風景


 とはいえ、研修の主流は言うまでもなく「騎乗技術の習得」である。春から秋までは外のダートコースが使えたが、12月になるともう凍結が始まっており、屋内施設での訓練に切り替えざるを得ない。「施設面ではどうしてもBTCと比較すると見劣りします。あちらは屋内の覆馬場の他、道路を渡ると屋根つきの直線1000mウッドや600mダート、そして坂路まであります。その点ここは覆馬場だけですから、これからの時期は再び基本の確認のようなメニューになってしまいますね」

研修風景


 ちょうど、研修生の訓練が始まっていた。8名のうち腰を痛めて休養している研修生が1名おり、残る7名が部班運動を行なう。真ん中に教官が立ち、研修生に指示を与える。1時間あまり実技訓練が続いた。

研修風景

 施設面でのハンディキャップがあるため、基礎訓練を経た後は、各自が就職した牧場でスキルアップを図るべし、という方針のようだ。「できるだけ幅広い知識と技術を教える」ことがモットーで、実習や見学などにも力を入れている。山口課長は「馬に乗るだけではなく、引き方や立たせ方などの『見せる技術』などももっと教えたい」と言う。実際の牧場勤務では、この「立たせて見せる技術」が乗る技術に劣らず重要視されており、今後はさらにより高度な研修内容が求められるだろう。

 なお、2009年度新規研修生には20名が応募しており、この中から12名(+α)を採用することになっている。「以前の競馬ブームと言われた時代には、単なる憧れだけで応募してくる例が結構ありましたが、近年の研修生は意欲的です」(山口課長)。単純に応募者数だけで研修生のレベルや素質などは論じられないのだそうである。競馬ブームの過ぎ去ったこの時代でも、馬の仕事へ就きたいという強い意思を持つ若者がこうして集まってくる。山口課長は「余裕があるならば本当は全員合格させて受け入れてあげたい」と胸の内を吐露していた。

韓国からの研修生

 研修生の騎乗訓練の後、覆馬場に入ってきた3人組がいた。年齢も身長もまちまちで、尋ねてみると何とお隣の韓国からの研修生であった。

 KRA職員が1人、生産牧場経営者?が2人。いずれも済州島から3か月間の予定で来日しているとのこと。騎乗訓練のみならず、JBBAでは種馬場でも研修していたそうで、言うならば生産、育成全般にわたり学ぶということか。

 彼らは静内の市街にあるホテルに滞在し、レンタカーでここに通ってくる。言葉の壁もあってほとんど会話ができなかったが、こと競馬に関しては韓国は現在のところ発展途上であり、日本に見習う点はまだまだたくさんあるのかも知れない。山口課長によれば、ここ数年、毎年数人ずつ韓国からの研修生を受け入れているようで、会話はほぼ英語主体であった。

 さて、JBBAとBTC、それぞれの人材養成のための研修制度について触れてきた。二か所合わせて年間30人前後が新たに入学し、また卒業して行くわけだが、依然として業界の需要を賄い切れていないのが実情である。

 BTCを利用している多くの育成牧場には東南アジアから来日している騎乗技術者がたくさんいて、人手不足を補っているが、おそらく本音の部分では「日本人のしっかりした若者」を欲しているはず。ただ、それが簡単に調達できないために、即戦力としての人材を東南アジアに求めているに過ぎないのだ。

 いずれにしても、良質な人材の確保は業界全体に共通する大きな課題である。とはいえ、日本の場合、子供の頃から乗馬に親しめるような環境に育った子供は例外中の例外で、多くは高校や大学などを卒業してからこうした養成機関、もしくは民間の専門学校などで基礎訓練を受けた後に馬の世界に入ってくる。素質や適性などにもよるだろうが、20代になってからのスタートでは、あまりにも遅いと言わざるを得ない。おそらくそこがアメリカやヨーロッパなどとの決定的な違いなのである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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