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道営ホッカイドウ競馬終了

  • 2023年11月16日(木) 18時00分

前代未聞の予想もしなかったアクシデント


生産地便り

▲道営記念を勝利したシルトプレ


 11月9日(木)、今年度の道営ホッカイドウ競馬が全82日間の日程を終了した。開幕は4月19日。以降週3日、火水木を基本にして門別競馬場を舞台に熱戦を繰り広げて来た。今年は天候不良や濃霧による開催休止にも見舞われず、順調に日程を消化できた1年であった。

 既報の通り、全82日間の馬券総売り上げは計512億8091万4960円。1日平均では、6億2537万円である。総額は昨年と比較すると約15億円少なかったが、開催日数も前年比で-3日だったので、逆に1日平均では前年よりも微増したことになる。これで4年連続500億円の大台を突破し、まずまずの結果を残したと言えそうだ。

 ただ、最終日の締めくくりとなる「道営記念」(距離2000m、1着賞金2000万円)では、出走11頭のうち6頭もの落馬事故が発生するという予想もしなかった事故が発生し、場内は騒然となった。昨年の優勝馬サンビュート、9歳馬ながら転入後3連勝中のアナザートゥルース、昨年の3歳二冠馬シルトプレなどの道営一線級に、今回は道営3歳王者のベルピットが初めて挑むという点でも注目度は高く、白熱した激戦が予想された。

 やや風があるものの天候は晴れ、気温もこの時期しては割に高めでそれほど寒さは感じない。多くのファンが見守る中、レースは定刻通りにスタートした。

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▲スタート後最初のゴール前付近


 4コーナーからゲートを出た各馬が、ゴール前を通過して1コーナーから2コーナー、向こう正面へと進んで行く。縦長の展開をリードするのは、エンリル(吉原寛人)、ネクサスハートがそれに続く。さらにその後ろをベルピットが追走する。1番人気(2.4倍)を分け合っているアナザートゥルース、シルトプレは4番手、6番手である。

 向正面からやがて3コーナー。ここでエンリルの直後につけていたネクサスハートがズルズルと後退する中、ベルピット、スコルピウスがエンリルに迫る。

 残り3ハロン地点を過ぎたあたりで突然、悲劇が起こった。先頭を進むエンリルがいきなり前のめりで転倒したのである。その瞬間、スタンドから大きなどよめきが聞こえてきた。

 ゴール前の埒沿いに蹲り、大型ビジョンを注視していた私たちも、エンリルの後続馬が次々に転倒するのが確認できた。しかし、その瞬間には何頭が落馬したのかが分からない。2頭や3頭ではなさそうだが、とにかく前代未聞のアクシデントが起こったということだけは伝わってきた。

 場内が騒然とする中、辛うじて落馬を免れた各馬が、4コーナーから直線にさしかかり、ゴールを目指してくる。先頭を走ってくるのはシルトプレである。その後方を進んでくるのはアナザートゥルース。そこから大きく開いてスコルピウス、さらにサンビュート、ハセノパイロと続いてくる。

 騎手が騎乗しているのはこれら5頭だけのようで、その後ろから、落馬したホッコーライデン(1番)、ネクサスハート(11番)が前後してゴール方向に戻ってくるのが確認できた。

 その直後、大外を猛然とゴール目指して駆けてくる馬が見えた。メンコのデザインからそれがベルピットなのがすぐに分かった。そこで初めてこの馬も落馬していたのかと改めて気づかされた。ただ脚色は悪くなく、見たところ大きな故障はしていなさそうにも見える。ベルピットは私の眼前を通り過ぎると、左側の馬道に誘導され、そこで捕まえられた。その一連の動きを間近で見ていたが、脚元は大丈夫そうなので、その一瞬だけ少し安堵した。

 やがてシルトプレと手綱を取る石川倭騎手が戻ってきたものの、大きな落馬事故の直後とあって、まったく笑顔がない。大レースを制した喜びよりも、落馬、競走中止を余儀なくされた他の人馬を気遣う気持ちの方が勝っているのだろうと思った。硬い表情であった。

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▲戻ってきたシルトプレと石川倭騎手


 結果的には、掲示板に載った5頭のみが“完走”し、残りの6頭が落馬競走中止となったわけである。日本競馬史上最大級の落馬事故と言えるかもしれない。

 非常に後味の悪い形での幕引きとなってしまったが、競馬ではごく稀にこういう不幸なアクシデントが発生してしまう。たまたま最終開催日の最終レースでこの事故が発生してしまったが、これは誰のせいでもなく、ただただ「運が悪かった」としか言いようがない。

 残り3ハロンと言えば、門別の場合は、4コーナーを目指して各馬がラストスパートに向け、好位置を確保しようと馬群が詰まってくる場面である。しかもカーブにさしかかり、各馬はコースロスをより少なくするため、できるだけ内埒沿いに進む。そんな中で、先行するエンリルが突然前のめりでひっくり返ったのだ。これは避けられないと後でパトロールフィルムを見直して思った。

 エンリルに騎乗していたのは石川の名手・吉原寛人騎手。腰椎骨折で復帰未定とも伝えられる。6人の中では最も重傷で、今はただ一日も早い復帰を祈るばかりである。またエンリルはその後、「予後不良」となったことも伝わってきた。

 何とも暗いムードの中、今年のホッカイドウ競馬が閉幕したことになるが、このアクシデントが尾を引くことなく、門別競馬場で来春、また新たな年の幕開けを迎えられるように、と願わずにはいられない。

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▲道営記念口取り

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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