桜の蕾のふくらみが気になり出した。咲きそうなころあいを予想するのは邪気が無く楽しいのだが、満開の木々の下での大騒ぎは好きな方ではない。万事、その風物は離れて楽しむべきと思う。
上品さとは、楽しみ方もあっさりしていて、しつこく面白がるようなことはしない。すべからく、上品にいきたいものだ。
ものの情趣とは、盛大な場面では感じることが少なく、花が散り、月が西に傾くのを惜しみ慕うときに情趣があると思うものだ。その情趣のわからない人は、ああ花は散ってしまった、もう見どころがないと、あっさりしている。ところが、月や花にかぎらず、はじめと終わりが特に面白いものと、通人なら知っている。
さらに加えるなら、照り輝く月を全身で受けとめるよりも、暁方近くまで待ってやっと見ることのできた月の方が心にしみるし、木の間がくれの月光に、このうえなく趣を感じる。競馬もある意味では、そんなところがある。いつもいつも元気でいて、連戦連勝の白星街道をまっしぐらもいいのだが、そんなことは滅多にない。
やっとの思いがあってこそ、競馬の情趣は深いものとなるし、そんなときの方が心にしみる。そこには、競馬を思い、馬を思う心が満ちている。まさに感動が見にしみわたる瞬間、それがあってこそ、いつまでも競馬から離れることはなく、それを共感する友がいてこそ、いっそうの情趣を競馬に感じるのだ。
いつもそういう瞬間を待っている、それが競馬なのだ。ひと群れの雲に見えかくれする月、その趣の深さが競馬にもあるのだ。
桜の花は真っ盛りを、月は曇りのない満月のみを見るものであろうか、徒然草にあるこの書き出しこそ、競馬とつれづれに楽しむ心の有り様に迫るものだろう。なにごとにもあっさりと、しつこくしない極意を、競馬でみがいていきたい。
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