3月29日は帯広競馬場を訪れた。
ばんえいの一年間を締めくくる「ばんえい記念」がこの日行なわれることになっていたので、何をおいても今日だけは行って来なければ、と考えたのだ。
多くのばんえいファンにとっても「この日だけは特別」との思いが強くある。この日の帯広の天候は晴れ。しかし、気温はほぼ平年並みで、5度まで達していなかった。
午前11時半、競馬場に到着。もう競馬場側の駐車場は「満車」の看板が出ている。やむなく、向かいの空き地の方に車を入れた。昨年よりはややファンの出足が鈍い感じであった。
やはり寒い。昨年がとんでもないほどに暖かな一日だったので、余計に寒く感じる。そのために、レースとレースの合間は、スタンドがほとんど空になるほどであった。みんなスタンド内で暖を取っているのである。
第1レースの発走は午前11時。最終12レースは午後5時50分。メーンの「ばんえい記念」は午後5時15分というスケジュールである。ばんえい最高峰のレースながら、昨年より1着賞金が500万円まで下がっており、台所事情の厳しさが窺える。因みに一昨年までは700万円である。
この日はばんえい記念を除く11レースが全て「協賛レース」になっており、各レースが終わる度に、企業や団体の関係者が表彰台で優勝馬の関係者に賞状や副賞を贈呈する場面が見られた。またトークショー(当サイトでもお馴染みの須田鷹雄氏や矢野吉彦氏がかけつけ、ばんえい記念の予想を行なった)あり、様々なプレゼントあり、と“特別な一日”を盛り上げるべく縁の深い人々がここ帯広競馬場に集合した印象だ。
「今日は流石に混んでいる」「やっぱり人が多いな」「いつもこれくらい入っていればばんえいも安泰なんだが…」こんな声をずいぶん耳にした。温暖だった昨年は、レースの合間の時間を外で過ごす人の姿も多かったが、今年の気温ではいくら何でも無理があり、どうしても中で暖を取らなければならない。しばらくエキサイトゾーンで頑張っていたが、寒さに耐えられなくなり、中に避難した。
すると、スタンド内部は、1階も2階も人、人、人。相当な混雑で、もはや腰を下ろすところもないほどごった返していた。想像以上に人が入っている。馬券売り場のみならず、払い戻しにも長蛇の列ができており、まともに通路も歩けないくらいの過密状態になっていた。
レースが近くなる度に、コース最前列のエキサイトゾーンに人垣ができるのもばんえい記念ならではの光景で、友人の常連ファン(ばんえい歴30年)に言わせると「あそこでかぶりつきで見ているのはどこか遠くから来ている人たちばかり。常連はあんなとこまで行かない」とのこと。多くの人々がスタートと同時に、馬の速度に合わせ、ゴール方向へ一緒に歩いてくる。視線を馬に向け、声援を送りながら、飛び跳ねるようにして馬とともに移動するそれらの人々を見ていると、ばんえい競馬もまだ大丈夫かも知れない…と感じるほどだ。
西に傾いた陽が雲に隠れた午後5時15分。いよいよ「ばんえい記念」だ。自衛隊の生演奏によるファンファーレが場内に鳴り響いた。スタンド内に陣取っていた多くのファンもこのレースの時だけは外に出てきて、スタートを待つ。取材章を持つ私たちは第2障害とゴール前とに分かれて待機である。
ゴール前からスタート位置は見えない。場内の歓声と実況とでゲートが開いたことを知る。重さ1トンの橇を曳く10頭の馬たちが見え出すのは第2障害の手前に来てからだ。
坂を上がり始めた順に、馬の顔がまず見えてくる。場内の声援が一層大きくなる。この一番の勝負どころでどの馬が最初に障害を超えるかをカメラの望遠越しに真正面の位置から見ていた。2番トモエパワー、9番ミサイルテンリュウ、10番カネサブラックといったところが坂を下りてくる。
レースはトモエパワーが抜け出しゴールイン。これで3連覇を達成した。2着はカネサブラック、3着にミサイルテンリュウ。全馬がゴールインすると場内から10頭の健闘を称える拍手が湧き起こった。
この日の入場人員は3954人、売り上げは1億6141万1400円。昨年よりも微増という好成績だった。堅いレースが続いたために、配当金を次のレースに投じる「転がし」をするファンが多かったせいだろうか。いずれにせよ、昨今の景気を考えたらこの日に限っては大健闘だったと言って良かろう。
なお、ばんえい競馬は30日(月)で、20年度の全日程を全て終了した。150日間の発売総額は115億5535万8700円。前年比10.66%の減少で、入場人員もまた昨年度より13%少ない43万6095人に終わった。
ばんえい記念の日、帯広市とオッズパークは「5重勝式馬券」のインターネット発売を今秋より開始すると発表したが、果たしてそれがどこまでばんえい競馬の人気回復に貢献するものか。運営を受託するOPBM(オッズパークばんえいマネジメント)側は、帯広市に対し、競馬場の複合施設化を求めているとも伝えられるが、市の対応はやや腰が重く、両者の間には考え方に幾分温度差があるようだ。「運営を任せたのでそっちでやってくれ」という市側と「主催は帯広市でありながら、新生ばんえい競馬がスタートして2年も経つのに、市は何も協力してくれていないではないか」というOPBM側。
このズレをどう埋めるか、今年こそ正念場である。
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