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心頭を滅却すれば火もまた涼し

  • 2009年07月14日(火) 23時57分
 暑い日が続く。当然ではあっても、つい愚痴りたくなる。しかし、これは野暮というもの。こういうときにこそ求められるのが痩せ我慢だ。この痩せ我慢を粋だとこの心に言い聞かせるとき浮かんでくる言葉がある。「心頭を滅却すれば火もまた涼し」と。一切の想いを断ち切ってしまうというのだから、これは一種の修行である。そこから禅の境地に達することができるかどうかは別問題だが、とにかくそう唱えてみるといい。「心頭を滅却すれば火もまた涼し」、その先に何かが見えてくる気にならないだろうか。

 まだまだ修養が足りないと思うとき、この酷暑の中走っている馬の気持ちに、ふと思いが及んだ。心頭を滅却してひたすら走っているではないか。楽しいはずはない。何の為ということもない。なのに走り続けている。よくよく考えてみると、すべて人間の一方的な扱いを受けているのだ。ただ走る、その心頭を滅却した姿に胸打たれる。

 さらに、個々の馬たちの事情に思いを寄せていくと、とても暑いなどと言えるものではなくなる。

 先日、阪神のプロキオンSを勝ったランザローテ。6歳馬なのにキャリアは、わずか10戦。その蹄跡は、凄まじい。デビューが3歳の6月、足下が弱くて遅かった。2戦して骨膜炎を発症し8か月の休養、復帰して2度走って今度は屈腱炎で1年8か月も戦列を離れ、戻ったのが5歳の12月、ここから6歳の1月まで3連勝してオープン入りを果たした。

 今回の勝利で6勝目だが、重賞は2度目で初勝利を飾った。先月惜しまれながら他界したアグネスタキオンの産駒だが、ダートの重賞はこの馬が最初、記憶にも残る勝利になったが、度々の障害を乗り越えたランザローテは、ただひたすら走る、馬の真の姿を、これから見せてくれるだろう。それを思えば、少しぐらいの痩せ我慢は、して当然と言える。

 でないと、馬に申し訳ない。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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