世の中のことがうまくいかないからといって、嘆くことはない。世事、浮雲の如し、気にするなと、中国の自然派詩人、王維は述べている。外界のことごとに心を動かされる日々だと、ある種の境地に達するなんて到底あり得ない。自然と対話でもするように、孤独を愛でるぐらいの心境がいいと言うのだ。
競馬をやっていると、正にその通りと合点がいく。この場合の世事とは、馬券がよかったとか駄目だったとかいうこと。それに一喜一憂していたのでは、落ちつかない。駄目だったら、そのうちにいい風が吹いてくるぐらいの心持ちで、慌てず騒がず、風向きがよくなるのを待つ。また、よかったからと言って喜んでばかりはいられない、たまたまいい風が吹いてきたにすぎず、果たして次も確信が持てるという保証はない。自然と吹く風と話でもするように、静かに向き合う心境を大切にしていきたい。
世の中のことはままならないのだから、そんなに気にせず、それより一杯やってひと眠りし、あとはうまいものでも食べてと、とにかく気分転換を上手にすることと書物は教えてくれている。
競馬に身を置くとは、身近に人生の荒波を見るようなもの、どう切り抜けるかの教訓を得るには格好の場となってくれる。
古い友人と一緒にいると、とても心地よいことがある。互いに、真に信じ合っているからで、ここには、一般社会にある嫌がらせ、ねたみ、嫉妬、中傷などは存在しない。誰かと競馬を共にするなら、互いの領域に踏み込まないと心得ている友人がいい。競馬における礼儀とは、孤独を愛でる心を大切にするところから成り立つ。そういう心の通じ合う友人は、人生の宝物みたいなもの。世間に生きるかぎり、嫌なことから免れられないから、そういう友人がいるかいないかは大きい。競馬を共にすれば、その判定はつくので、改めて見つめ直してみたい。