言葉を友達に持つと、孤独感は薄らぐものだ。たった一人だと身が縮む思いになったら、その友達を連れてくるといい。意外な力を発揮してくれる。心の傷を癒してくれる言葉を集めた人生処方箋のような本は、いつの時代も、本屋のどこかに存在してきた。どんなにひどい目にあったあとでも、人生処方箋によって慰められたことは多く、それを知っているかいないかでは、生き方が違ってくる。
そういった言葉は、名言と呼ばれる。文人たちの著した書物の中には、こうした名言が随所に顔をあらわしている。その中で、自分の心境にぴったり来たものをメモでもしておくと、しっかり身についていく。
若い頃出会った井伏鱒二の名言は、その頃の自分に大きな力となり、今ではなつかしさがこみあげてくる。余りに有名だが、「花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ」という詩である。口ずさむことで、巨大な壁に立ち向かった時の、ひとつひとつのシーンが甦るのだ。
競馬も人生ととらえれば、数々の名言があてはまる。しかし、競馬には競馬にだけの言葉があっていい。昔からよく聞かされていた言葉の中でも、「きゅう舎情報は複勝を買え」だけは、なかなか奥行きのある言葉で、よく競馬を言いあらわしていると思ってきた。
この仕事をしていると、外部の者は、よほどいい情報が耳に入ってくると思っているようで、よく聞かれるのだが、そんなものをいちいち信じていたら、とんでもないことになる。たまに、これはちょっとと心が動かされるが、多くの場合、それでもきっちり勝つことは少ない。それでも、なるほどという走りは見せるので、そこで件の言葉が生きてくるのだ。「きゅう舎情報は複勝を買え」とは、実に含蓄のある言葉だ。人の期待は、パーフェクトに叶うことは少ないが、だからと言って、完全な空振りに終わるとは限らない。根拠があれば、複勝ぐらいならなんとかと。