本当に好きなことに心を打ち込むと、ただ夢中になるということだけでなく、そこに愛情が、そして感謝の思いまで生まれてくるものだ。こういう経験は、心を豊かに導いてくれる。競馬の中でも、好きな馬ができれば、楽しみは倍増する。こういう経験は、その馬への愛情に発展するし、やがて感謝の気持ちになっていく。競馬場でこういうファンの方たちと知り合えることがあると、とにかく嬉しくなるのだ。
レースでは、勝つ馬は1頭のみ、多くは負け続けることの方が多い。自分が好きになった馬がいても、負けてばかりいることになるのだから、そこにこだわっていたのでは長続きしない。勝ち負けを超越した心境、そこまで行き着かなければ、本物ではないと思う。
今一番の人気馬、ウオッカが出走する競馬場は、いつもと違う晴れやかな雰囲気なのだが、ウオッカの場合は、牝馬でありながら牡馬を相手に勝ってきたという事実があって、多くの期待をいつも背負うようになった。そして、今では勝ち負けを超越したところでウオッカに夢中になっている者が多いと思う。パートナーの武豊騎手は、日頃から、僕たちは競馬を盛り上げるのが役割でもあるのだからと語っている。ウオッカにどんな思いで騎乗しているかは、想像に難くない。
とにかく、この人馬は、現在の競馬にとって有り難い存在なのだ。GI競走の表彰式のときスタンドから、時折、ありがとうの声が耳に飛び込んでくるが、愛情と感謝の念が発露したものであり、とても気持ちがいい。
ところで、感謝と愛情の究極は、どんなところに向けられるときだろうか。それは、内なる自分にだと思う。内なる自分とは、命の営みのことであって、一日をつつがなく終えることができたこの命を、愛おしく有り難く思うこと。躊躇なく真っ直ぐに自分と向き合う清々しさがそこには生まれる。人生道場として、競馬に接することだって可能だ。