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ナカヤマフェスタ、新井牧場訪問

  • 2010年06月30日(水) 00時00分
 今年の上半期を締めくくる宝塚記念が27日(日)阪神競馬場で行われ、伏兵ナカヤマフェスタがブエナビスタやドリームジャーニー、ジャガーメイルなどの強豪を抑えてのGI初制覇。日本ダービー4着の実績が伊達ではなかったことを証明した。

 このナカヤマフェスタの故郷はむかわ町米原にある(有)新井牧場。

 誠さん(50歳)と鈴美夫人(47歳)の夫婦二人で13頭の繁殖牝馬を管理する牧場である。

 むかわ町とはいいながら、新井牧場は門別競馬場の西側すぐのところ。敷地の真ん中を東西に貫く日高自動車道からよく見える牧場だ。

(写真・日高自動車道を走る大型車両) 

 宝塚記念の翌々日の午後、新井誠さんが各社合同の取材に快く応じて下さった。レース後に届けられた数々の祝花や祝酒が、応接間を兼ねた別棟の事務所にところ狭しと並べられている。近年、GIのお祝いに花が届けられるケースが増えており、ご覧のような「温室」のごとき空間が出来上がっていた。

(写真・応接間風景) 

 ナカヤマフェスタはこれで10戦5勝。GIII(東京スポーツ杯2歳S)、GII(セントライト記念)、GIをそれぞれ1つずつ制したことになる。

 阪神競馬場で応援した誠さんは「まさか勝てるとは思っていませんでした。評価もあまり高くなかったし(8番人気)、メンバーも強化したので・・・」と2日前のことを振り返った。

「着に来たらお祝いしよう、と妻と言っていたんです。ただ、パドックで見た時には、目つきがおとなしくなっていて大人になったんだなあと思いました」

 とはいえ枠入り直前に柴田善臣騎手を振り落とし、気難しいところを見せたりもした。

 レースは馬主席で観戦したという。

「4コーナー前から馬なりで上がって来るのが見えました。で、どんどん加速してきたので、これはもしかしたら着くらいはあるかも、と。それくらいなのでゴール前、ブエナビスタとアーネストリーを交わして差し切った時は本当に驚きましたね。夢を見ているのかと。まったく想像していませんでしたから」

 GIレースの表彰式は、これまで何度も生産馬の応援に赴いて、現地で見ていたという。ナカヤマフェスタは皐月賞、ダービー、菊花賞すべてに出走し、その都度出かけて声援を送っていたのでだいたいの“手順”はわかっていたらしい。今度は新井さんにその順番が回ってきたのだ。感無量であったことだろう。

 新井牧場は現在繁殖牝馬13頭を繋養している。そのうち預託馬が10頭である。夫婦二人でこの頭数はかなりの“激務”だが、誠さんはまるで意に介していない。「ある程度の頭数がいないと、1歳馬を牡牝に分けて放牧する時など、少頭数になってしまってあまり運動しなくなる」と考えている。どうかすると、生産馬の性別が偏り、どちらかがわずか1頭だけになるケースも小規模牧場では珍しいことではない。

「だからこの頭数になったんですが、その代わり、飼料用牧草は自家生産せずにすべて買い入れています。なるべく馬に手をかけてやりたいので、牧草作業まで手が回らないというのが正直なところですね」

 20町歩ある放牧地に、今は夜間放牧である。清潔に管理された厩舎の廊下には体重計が設置され、当歳馬は毎日体重測定をする。「体重の変化は特に成長期の当歳の場合には顕著に数字に表れます」と誠さん。

 こうした日々の積み重ねがGI制覇という栄冠を新井さんにもたらしたのである。

(写真・厩舎) 

 ナカヤマフェスタの母ディアウィンクは、2年空胎の後、今年ディープスカイを受胎しているという。

「この馬はなかなか気が強くて、最近まで群れのボスだったんですよ」と誠さんは苦笑いする。とはいえ繁殖牝馬としてはかなり優秀で、デビューした産駒はすべて勝ち上がっており、しかもマイネルクラッチ(6歳)を筆頭にみんな現役である。ナカヤマフェスタは3番仔になる。

(写真・ディアウィンクと新井さん夫婦) 

 新井誠さんは酪農学園大学卒。在学中は血統の研究に没頭したという。

 卒業後、金沢競馬場で1年間過ごし、84年に戻って家業を継いだ。

 当時、新井さんの父誠三さんが生産したダンシングファイタ(金沢で9勝した後中央入り。中山牝馬Sなど5勝)が活躍しており、それも家業を継ぐ決心を固めるきっかけになった。ダンシングファイタは現役引退後、新井牧場に戻り、繁殖入りする。誠三さんが「千明牧場に手紙を書いて」(誠さん)株を入手したという当時人気絶頂であったミスターシービーを配合して生まれたのがダンシングスズカ。ここからゴーイングスズカ(44戦8勝、目黒記念、福島記念優勝馬)が生まれる。以来、「スズカ」の永井オーナーとはずっと深いつながりが続いている。

 牧場には、経営の屋台骨を支えてくれたゴーイングスズカとシャドウクリーク(33戦7勝)の2頭が暮らしている。ともに17歳でまだまだ元気一杯だ。

(写真・ゴーイングスズカ) 

(写真・シャドウクリーク) 

 こうして生まれ故郷で余生を送れる馬(まして牡馬)は稀有な存在だけに、幸せそうな様子が微笑ましかった。

 ナカヤマフェスタは凱旋門賞遠征のプランもあるようですがそうなったら現地に行かれますか、と質問されて誠さんは「次は妻を応援に送り出します。ちょっと日帰りは無理ですから」と笑った。まだ10戦と使い減りしていないだけに、今後も大いに期待できそうだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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