7月に入るといよいよ今年の1歳市場が本格的にスタートする。まず、6日(火)には、青森の「八戸市場」(青森県軽種馬農業共同組合主催)を皮切りに、「セレクトセール」「セレクションセール」と毎週続くのである。
さて、その「八戸市場」。今年は北海道(すべて日高)から遠征する1歳馬も例年より多く、最終的には75頭(2頭欠場)が上場された。やや雲が多め、気温と湿度も高かったが、まずまずのコンディションに恵まれた。
北海道から青森までの遠征は、当然ながら海を渡らねばならないのだが、多くの上場馬がひしめく地元の市場に出すよりは有利な展開が期待できるものと判断して、はるばるフェリーに乗り込んで出かけるのである。
当初、こうした北海道組の存在は、地元青森の生産者たちにとってはかなり「邪魔な存在」だったらしいが、近年、急激に県内のサラブレッド生産頭数が減り続けている現状から、今ではむしろ遠征は大歓迎らしい。名簿上77頭の上場予定馬のうち、日高からの参加は16頭に及んだ。「北海道からの上場がなければ市場が成り立たない」というところまできている。
この日、青森県東部は午後から降雨の予報になっており、そのために比較展示、せり本番ともに予定時刻を大幅に繰り上げるスケジュールになった。上空は雲間から陽が差していたものの蒸し暑く、1歳馬を引く人々は汗だくである。せっかく磨いた1歳馬も同様で、人馬ともにびっしょりと濡れていた。
午前9時20分より比較展示が開始された。全体を4組に分かち、1組あたり20頭弱である。約15分の展示時間が終わると、時計回りに全馬が常歩で2周し、最後に1頭ずつ速歩を披露して終了となる。
購買者登録は昨年と同様の約40人。JRAを始め、毎年この市場で見かける常連購買者の顔を確認できた。いつもと変わらないのどかな市場風景であった。
予定では11時50分まで比較展示の時間を取っていたのだが、11時半にはすべて終わらせ、せり開始も、午後1時となっていたのが12時15分に変更された。
青森の市場に生産馬を上場する地元の人々は、ほとんどが家族総出でやってくる。北海道と違い、コンサイナーに預けて市場上場まで任せるほどの分業化が進んでいないことから、上場頭数が複数に及ぶ場合には、それぞれが近所の農家の人や友人などを頼むことになる、らしい。
昼食時には家族みんなで仲良くお弁当を広げる光景をあちこちで目撃した。日高の市場も以前はこうであったと懐かしく感じさせてくれた。
とはいえ、せりが始まると、何とも厳しいムードが漂い始め、活気の乏しい市場となった。
売れない、のである。松橋鑑定人のお台付け価格を連呼する声だけが空しく響く中、一部の注目馬に複数の購買者が集中するような状況のまま、早いテンポでせりが進行した。
これまで見たことのない出来事が二つあった。まず、JRAがこの市場でついに育成馬を105万円(税込み)で落札したこと。このところ育成馬購買に関しては最低価格が下落してきていたが、それでも200万円台は確保されていた。しかし、今年はついに105万円まで下落し、相場がかなり崩れてきていることを実感させられた。
もうひとつは、この市場で複数の馬が「せり下がり」によって販売されたことである。通常は、販売する側が提示した希望最低価格(それがお台付け価格である)が場内にコールされ、せりが始まる。声がかからなければ「主取り」である。
今回のある馬の場合は、鑑定人が「200万円、ありませんか」と購買者に向かって告げた後、声がかからないことを確認して「それでは値下げをして180万円ではいかがですか」と続け、そのまま20万円ずつ価格を下げてとうとう140万円まで行ってしまったのである。
こうした例は他にもあり、場内には重苦しい空気が立ち込めた。遠い昔ならばいざ知らず、近年ではおそらく前例のないケースで、ひじょうに驚かされた。
終わってみれば、75頭中、落札されたのは20頭。売却率は昨年の46.7%から大幅に下落して26.7%。売り上げ総額も前年比1732万5千円減の4987万5千円にとどまった。
最高価格馬は6番「セイカシリアスの2009」(牝青毛、父ワイルドラッシュ、新ひだか町タイヘイ牧場生産)の693万円。(有)ディアレストクラブが落札した。
牡馬の最高は11番「ヘイアンリリー2009」(黒鹿毛、父マイネルラヴ、青森・石田英機牧場生産)の682万5千円。購買者は(有)ビッグレッドファーム。
市場を総括して山内正孝・青森県軽種馬生産農協組合長は「かなり厳しい結果でした。JRAにも4頭購買いただいたが、105万円の育成馬には正直言って驚かされた」と振り返り、言葉を続けて「せりとは本来せり上がるものですが、今年は価格を少しずつ下げて行く馬も何頭かいて、これも従来なかったケース。
いくらでも売りたい、売ってしまいたいという気持ちは理解できるが、この方法は決して良いとは思えない。
主催者としては、欠場もわずか2頭だけで(県内の上場申込馬は欠場なし)、それなりに努力はしている。しかし、この価格では、来年以降の生産に結びついて行かないですね」と語った。
今後の青森県内のサラブレッド生産を守って行くためにも、改めて、八戸市場のあり方を再点検する必要がありそうだ。
なお、北海道からの遠征組は欠場2頭を除くと14頭が上場され、6頭が落札された。売り上げは2236万5千円。全体に占める北海道組の割合は、売却率では30%だが、額では約45%に達する。