またまた「牝馬」に軍配が上がり、創設されて10年、うち8回までの勝ち馬を牝馬が独占となった。「牡馬」で勝ち馬となったのは02年、04年に勝ったGI勝ち馬カルストンライトオ(父ウォーニング)のみ。平坦の直線1000mはスペシャリストの距離というより、スピード系の牝馬にとってはいつもの1200〜1400mの短距離レースでの評価を一変させることも可能な競走、というべきかもしれない。
伏兵ケイティラブの1000m実績は知られていた。昨年夏の「54.5秒」を筆頭にこのレースを迎えるまで直線1000m[3-0-1-1]。そこで8番人気とはいえ単勝オッズ13倍。しかし、とにかく飛ばして行く一手。昨年1000万条件を54.5秒で勝った際が、「最初の400mを21.5秒、後半600mを33.0秒」。この、ただ猛然と行く一手戦法は、苦しくなる後半3Fが33秒前後になってしまうため、条件戦ならともかく、能力互角のスピード型がそろうオープンでは苦しいかと思えた。
この距離を「53.7秒」の日本レコードで独走した際の02年カルストンライトオは、その中身「21.8秒-31.9秒」。04年、再び53.9秒でサマーダッシュ2勝目を記録したときが「22.0秒-31.9秒」のバランスで、最後の1Fも失速せず「11.2秒」。カルストンライトオの圧倒的な1000m記録が分析されるほどに、直線1000mを速い時計で乗り切り、かつメンバーのそろう重賞で好走するためには、ただ猛然と行くのではなく「前半の400mはあえて22秒前後のダッシュ」にとどめ、後半に余力を残すのが理想の形ではないか、と推測された。
また、芝状態が異なるとはいえ、ヨーロッパの短距離直線レースの見た目のバランスも「ただ行く一手型」は苦しく、なだめて進み最後にもう一回加速できるタイプが断然有利であることも、カルストンライトオの快走記録と結びついた。もっとも、カルストンライトオの父ウォーニングや、その代表産駒の活躍の舞台は主に欧州の短距離戦だから、それは当然だったのだが…。
ケイティラブ(父スキャン)の「53.9秒」は、カルストンライトオの記録とは逆パターンのバランスで記録されたところに大きな意味がありそうである。出ムチを入れて飛ばし「11.6-21.5-31.8-41.9秒…。最後は12.0秒」。最初の400m21.5秒は、ただもう猛然と行くなら未勝利馬でも可能だが、こういうラップを踏んで勝ち切ることはまず至難。ましてケイティラブはそのあとも減速せず前半3F「31.8秒」。これだと後半の失速は見えているから、他馬はこうは思い切り良く飛ばせない。
そのため、2番手のジェイケイセラヴィの江田照男騎手が「これは勝てる」と感じたのも納得。ズバリのスピード感覚である。ところがケイティラブは止まらなかった。そのまま乗り切ってしまったのだから、レコードと差のない「53秒台の記録」として、直線1000m史上に残る快記録である。
西田騎手とのコンビは、前出の1000万勝ちが「21.5-33.0」=54.5秒。猛然と飛ばしながらさしてバテなかった。だから、西田騎手にしてみれば(昨年より明らかに強くなっている直前の内容から)、同じように飛ばして一段上の内容が見込めて当然だった。気合を入れて「21.5秒」で行く。予測通り今年はもっと粘り強くなっていたから失速することなく後半「32.4秒」。これでコンビ2戦2勝。鮮やかに、外連味なしの見事な重賞制覇である。以前の重賞勝ちは、なんという馬だったか思い出せないほど試練(ブランク)の期間が長かったから、「良かった」と祝福するしかない。
ジェイケイセラヴィ(父スクワートルスクワート)は、自身「21.7-32.3秒」。カルストンライトオと似た形のラップを刻み、アイビスサマーダッシュを制するためのお手本のようなバランスで乗り切った。例年なら十分に勝ち時計に相当する「54.0秒」。でもケイティラブが失速しなかったのだから、これは仕方がない。
以下は横一戦。3着には、不利なインコースから絶好調柴田善臣騎手のマルブツイースター(父サクラバクシンオー)。毎年善戦のアポロドルチェが小差。
人気のメリッサは急に失速して大差18着。一本調子型で直線1000mが合っている可能性も大いにあったが、さすがに人気になりすぎか。実績のあるグループが信頼性を欠いて押し出された形だった。
カノヤザクラの可哀想な脚部故障はもう不運としか言いようがないが、アクシデントがなくても57kgの今年は苦しかったかもしれない。ショウナンカザン(父ショウナンカンプ)は変な入れ込み方で、レース前から集中心を欠きすぎていた。快走した1〜3着馬は別に、シリーズの1戦のためか、あるいは急な猛暑が原因か、重賞にしては体調に問題ありの馬が多かった印象も否定できない。