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天皇賞・秋

  • 2010年11月02日(火) 13時10分
 これで通算15戦[8-4-3-0]となり、5個目のビッグタイトルを手にした4歳ブエナビスタ(父スペシャルウィーク)は、いま充実の完成期を迎えた。今回のレースが「1番強かった。危なげなかった」。衆目一致のレース回顧だろう。

 秋に向けてきわめて順調に調整が進んだこともあり、休み明けながら落ち着きはらっていた。パドックの周回では凛とした気品さえ感じさせ、C.スミヨン騎手のいう「パドックで見た瞬間に勝利を確信した」。そんな賞賛もまさに納得。他馬との比較うんぬんは別のことで、桜花賞やオークスを制した3歳時とはまた別の次元さえ思わせる素晴らしい牝馬になっていた。結局、スミヨン騎手は一切の無駄なアクションは慎み、抜け出すときに合図を送っただけ。鞭は抜いたものの使用することはなかった。

 雨の影響は最小限にとどまり、ほぼ良馬場に近い稍重。予想通りにレースを先導したシルポート(酒井学騎手)が、伏兵の逃げ馬としては理想のペースを作り、結果、レース全体のバランスは「59.1秒-59.1秒」=1分58秒2。ブエナビスタはスタート直後の中団よりやや後ろの位置から、とくに動くでもなしに間合いを詰めるように少しだけポジションを上げ、いともたやすく抜け出すタイミングをつかんだ。とくに何もしなかったように見せるあたりが、ザルカヴァなどトップ牝馬を知るスミヨン騎手の真価なのだろう。

 あくまで誉め言葉だが、この日、勝負どころで激しく斜行して降着となったD.ホワイト騎手と同じで、スミヨン騎手とて騎乗馬がもしガサツで荒い男馬なら、あるいは苦しい状況に陥ったら、もっと激しい騎乗スタイルの乱暴な男に立ち帰る。

 別に何もしなかった(ように見せた)ところが、世界のトップ騎手のわけで、したがって、結果はあくまで「ブエナビスタの強さ」が光り輝くことになる。勝てると確信したら、レースを演出してしまうくらいではじめて一流。この、競馬を盛り上げ、品格と中身を高めるかのような騎乗を日本のトップ騎手もぜひ意識して身につけたい。主役は決して自分ではないことを人びとに伝えてこそ、一流ジョッキーが持つ「乗り手の技」である。自分が主役であろうとする腕前の次元だと、ペース判断などに誤りが生じる。

 2着に突っ込んできた3歳ペルーサ(父ゼンノロブロイ)は、ブエナビスタが完勝した紛れなしのレースだったからこそ、負けても次代のエース格を予感させる高い能力を示すことになった。バランスのとれた流れで最後のレースラップは「11.7-11.3-11.9秒」。前方の馬が失速したわけではないところを、残り300mぐらいの地点では圏外にいながら猛然と突っ込んだ。最後の2ハロンは推定「11.0-11.0秒」でさして誤差はないようにも思われる。独走を決めた「青葉賞」以上のすごいフットワークだった。パドックの所作はいかにも若く、ゲートで腰を落として暴れるのは「まだふざけている…安藤勝己騎手」とされるが、今回のゲート内も自身の挑戦する天皇賞の意味などすこしも理解できていない幼稚園児の暴れ方だった。前回ほどの出負けではなかったが、あのロスがあってブエナビスタに追いすがってみせたから驚く。陣営は、ジャパンC挑戦に踏み切ると思われる。

 3着アーネストリ-(父グラスワンダー)はほぼ完ぺきに近いレース運び。しかし、残念ながら完敗。「コースが替われば…」など、再挑戦に向けてまた闘志をかき立てる要素を探すことになるが、ショック大の3着だろう。この秋は不思議なスランプだった3歳オウケンサクラ(父はビッグウィークと同じバゴ)は、一旦後退したように見えたが、また盛り返して4着。うまく流れに乗れたこともあるが、これが本来の能力と思われる。

 外から突っ込んだネヴァブションは、回復し過ぎた馬場で、かつインに潜り込める枠順ではなかったから、2000mでは一応精いっぱいか。再びの挑戦に期待されたシンゲンは、チャカついての発汗はいつものこと。調整の難しい馬で1〜2週前にピークを迎えてしまったか、どこか全体に迫力が乏しく、レースでは逆にムキになっていた。完敗だが、挑戦をやめては意味がない。次走はジャパンCになる予定。大きな不利のあったエイシンアポロン、斜行のあと自分も詰まってあきらめたジャガーメイルは、18頭立てだからこういうこともある。次を展望するしかない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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