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netkeiba

信じるより他は無い

  • 2011年01月12日(水) 00時00分
 こんな話はどうだろう。今年の競馬の初笑いは、友人からの電話だった。

 競馬歴40年以上になるその友人は、いくら考えても仕方がないという境地に達していて、どういう訳か、メインレースは1と3と9なる馬番でまとめることにしている。ところが新春競馬の4日目、京都の淀短距離Sで魔がさしたのか、あまりにも駄目なので心変わりして1番をやめて、2・3・9の3つの数字にしてしまったのだ。結果は、ショウナンカザンが勝ってシャウトラインが2着で3番・1番と入って万馬券に。なぜ1番をやめてしまったのか、自分の馬鹿さ加減に呆れてガッカリ、プールに泳ぎに行って体が沈みそうになったよと、電話の向こうで大声を上げていたのだ。

 競馬に限らず、「信じるより他は無い」のであって、「馬鹿正直に信じる」ことこそ生き抜く最大の力であるはず。少なくとも私どもの年齢になると、そんな心境であることが多い。太宰治の「かすかな声」という一文の中に、「信じる能力のない国民は、敗北すると思う。信じて敗北することに悔いはないむしろ永遠の勝利だ。」とある。

 若いころに目にしてずっと頭の片隅にあったのだが、今頃になって、俄然クローズアップされているのだ。それだけ長く生きてきた証なのだが、競馬と付き合っていると、どれだけ自分を信じるかに尽きると思う瞬間がよくある。信念がグラついて挙句の果てに失敗する、よくあること。この繰り返しが競馬の日々と言っても過言ではないと思う。「信じるより他は無い」、これをバックボーンにと自分に言い聞かせているのだが、競馬は言葉の誘惑の多いもので、信念を貫くのは至難と言ってもいい。友人の電話のようなことはよくあることで、「競馬とは何ですか」という問いには「わびしさを堪えること」と答えたいのだ。かくして今年もスタートした。皆さんの初笑いは。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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