競馬の格言、常識にはいろいろあるが、その中で「ベテランは長距離、短距離は若い馬」という定説がある。
短距離は経験がなくても若さで乗り切れるが、長距離はベテランのペース配分が有効だという考え方だ。あるいは、ベテランになるとスピード勝負に対応はできないが、マラソンレースなら対応可能という考え方もある。
陸上競技もスプリンターは若い選手が多く、マラソンランナーはベテランが多い。私は陸上競技に詳しくないので実際のところはよく分からないが、たしか、宗兄弟は選手としての後半のレースもトレードマークとも言える、首を傾ける独特のフォームで走っていたようなイメージがあるし、野球選手でも盗塁数を稼げるのは一般に若い選手で、おじさん選手が活躍するのは走る必要のない、ふっくらとした長距離砲が多い。
だが、この常識は10年以上前から言っていることだが、まったくの間違い、正反対なのだ。
そもそも、人と馬の競技を比べても何の意味もない。人の場合は馬より自制心、向上心、研究心が強いからだ。馬は、「前回、折り合い欠いちゃったから、今回はあそこで息を抜こう」とか、「できるだけ長く競走生涯を続けたいから、上手くケアしながら研究を重ねていこう」などと、ほとんど(ぼんやりと考える馬も、もしかしたらいるかもしれないが)考えない。
ところが、馬も人も共通するものがある。それは、「飽きる」という感情や、心身が「消耗する」ことだ。
馬の場合は、自制心、向上心が人間より希薄な以上、年を取れば自然と後者の負の要素がより強く作用する。そうなると、距離の長いレースの方が、途中で走るのが嫌になる可能性が高まってしまう。だから、高齢馬は長距離より短距離で活躍しやすいのだ。
それに加えて、生命力の問題もある。実は長距離の方が、生命力の消費は大きくなるのだ(消費する生命力は時間と強い相関関係にある)。
以上から、生命力の要求される重賞、特にGIでは、「高齢馬は短距離向き」という傾向が顕著になる。
説明ばかりでは分かりにくいので、データを見ていこう。まず芝1200mで行われた全重賞で見てみる(データは86年以降)。
すると、4歳馬は単勝回収率56円、複勝回収率64円と低いのに対して、6歳以上は単勝回収率134円、複勝回収率71円と高い。明らかに6歳以上が圧倒しているのだ。
若い馬は人気馬が多いからでは? と考える読者も多いだろう。たしかに連対率では4歳馬が14.4%に対して、6歳以上は10.8%と低い。だが、そもそも6歳以上は人気薄が多いので、どの距離でも連対率は低く、連対率を世代間で単純に比べることに意味はない。
比べるのは、他の距離との関係性だ。
そこで芝3000m以上の長距離重賞を見てみると、4歳では単勝回収率88円、複勝回収率89円と短距離と比べてグンと高い数字になるのだが(連対率も22%と急上昇)、6歳以上はというと……。
(次週へつづく)