これまで、長距離は高齢馬に厳しく、トップクラスではむしろ短距離の方が高齢馬に有利だという話を、データを交えて書いてきた。
その主な理由として、「馬が飽きる」ことと、「心身の消耗」を指摘した。
逆に言えば、この2つの問題をクリアすれば、高齢馬も長距離GIを走れるはずだ。そうでなければ、私の仮説そのものが間違っていたことになる。
そこで、過去に天皇賞・春を7番人気以下の人気薄で3着以内に激走した馬を、1頭1頭、実際に見てみることにしよう。
直近では、09年のマイネルキッツがこれに該当する。6歳で12番人気1着と激走したのだった。
そこで、それまでのマイネルキッツのキャリアを調べると、なんとその天皇賞・春が6歳にして初のGI出走だったのだ! また、3000m以上の長距離を走るのも、そのときが初めてだった。
つまり、「長距離に飽きて」いないし、トップクラスのレースを走っていないので「消耗」もしていなかったのだ。
その前では、05年の14番人気2着ビッグゴールドが該当する。
彼の場合も、7歳にして古馬混合のGIは初出走。3000m以上のレースも古馬になって初。菊花賞以来、実に3年半ぶり、生涯2度目の3000m以上のレースだった。
こちらも、「長距離に飽きてなく」、トップクラスで「消耗」もしていない。
ここまでは、以前天皇賞の話題か何かで話したことがあると思うが、それ以前に遡ってみても、状況は変わらない。
その前は91年の7番人気2着ミスターアダムス。
彼の場合も6歳にして今回が初のGI出走。3000m以上こそ、5回目の出走だったが、6走前まで条件戦を走っていたように、高齢馬の割にトップクラス鮮度は充分だった。
その前は12番人気3着の90年カシマウイング。7歳にして、これがまだGI3戦目。3000m以上の出走に関しては、初めてだった。
実に該当した4頭中3頭が、6歳以上にして、「古馬GI戦が初めて」だったのだ。また、やはり4頭中3頭が「古馬混合での3000m以上の経験が初めて」だった。そして4頭とも、上記2つの条件中、1つには必ず該当していた。
つまり、高齢馬は「長距離に慣れているから、長距離戦に強い」というのは、まったくの幻想なのだ。幻想と言うより、真実はまったくの逆。高齢馬は慣れていない方がいいのである。
このデータが恐ろしいのは、春の天皇賞に出てくるような高齢馬は、普通、長距離経験やGI経験が豊富という点だろう。
ちなみに今年天皇賞・春に出走した6歳以上の6頭のうち、古馬GIが初だった馬は1頭もいないし、古馬の3000m以上戦が初だった馬も1頭もいなかった。
もちろん人気薄でも、過去に長距離GI経験が豊富な高齢馬はいくらでも出走していた。しかし、人気薄で激走した4頭は、何れも少数派の「慣れていないタイプ」に当てはまる馬だったのである。
次週は、他の距離における年齢と、鮮度の関係性を考察していきたいと思う。そこには、3000m以上とはまた違った、距離の長短という概念を超越した新たな地平が見えてくるに違いない。