先週まで、高齢馬にとって3000m以上の長距離では、いかに鮮度が大切かを見てきた。
7番人気以降の人気薄で天皇賞・春を3着以内に入った6歳以上の馬は、「古馬混合GIが初」か「古馬混合3000m以上が初」だったのだ。
ということは、もしこういう馬の出走がなく、長距離重賞の常連ばかりで6歳以上が構成されていたのなら、天皇賞・春での高齢馬の回収率はさらに壊滅的に下がっていくだろう。
裏を返せば、ある程度鮮度のある「長距離経験の少ない高齢馬」なら、むしろ長距離重賞が狙い所になるケースは増えるということでもあるわけだ。
ところで、それとは対照的な、JRAでもっとも短い距離の重賞であるアイビスサマーダッシュが今週行われた。
この直線競馬についても、鮮度の重要性を連載で時間を割いて説明してきたので、覚えている読者も多いと思う。そして今回も、このことがいかに重要かをに証明する結果に終わった。
今年、直線競馬を2走以上経験していた馬は、内からバイラオーラ、サアドウゾ、アポロドルチェ、マヤノロシュニ、セブンシークィーン、ストロングポイント、シャウトライン、スピニングノアールと、実に半数近い8頭も出走していた。
しかし、その最高着順はシャウトラインの4着。結局、上位3着以内を直線経験1戦以内の馬で占めたのだった。お陰で、私も先週の七夕賞につづいて、馬連の1点目で重賞を当てることができた。いかに鮮度が重要かということだが、その内容にも注目してほしい。
勝ったエーシンヴァーゴウは直線2戦目だが、2走前が準OPで、今回が初重賞と、トップクラス鮮度そのものが高い馬だった。前走はストレスの溜まりやすい同クラス同条件の直線競馬だったが、レース間隔が中6週と開いていて、直線競馬の記憶が遠くなっていた点も見逃せない。
2着のエーブダッチマンは今回が初直線なので、鮮度は説明するまでもない。付け加えれば、以前解説した、ダート短距離を先行して連対している実績も、S質の証明として申し分ない。
3着アポロフェニックスは2度目の直線だが、前回は2年前で14着惨敗。走っていないに等しいので直線鮮度は高かった。
もちろん、直線経験が多い馬も直線競馬で連対することはある。だが、そのときには、何かしら鮮度を補完するステップ的な仕掛けが行われていることが多い。だからむしろ、一見条件鮮度が低いような馬が連対したときにこそ、鮮度を蘇らせるためのロジックが見えてきて(鮮度の意味をよりクリアにする貴重な)データとなるのである。
7歳にして2年連続で天皇賞・春を連対したマイネルキッツにしても、前年の天皇賞・春を連対した後、一度も3000m以上のレースを使っていなかったのだ。普通なら、少なくともステップレースに阪神大賞典を使いたくなるものだが、それも我慢した。
そのお陰で、7歳の天皇賞・春時点でも、「生涯2度目の3000m以上の距離」という、7歳馬としてはなかなか得がたい条件鮮度のキャリアを手に入れることができたのである。
最短距離重賞で象徴的なでき事が起きたので、ついついスペースを割いてしまったが、次週以降は、改めて距離別の問題を掘り下げたいと思う。
1200m重賞の場合は高齢馬でも回収率が高いと以前書いたが、その仕組みはどこにあるのだろうか? 直線競馬のように、各距離別の鮮度設定に固有の問題があるのだろうか?
その辺りについて、次回以降は見ていきたい。