短距離の非根幹距離である1000m、1400mには「どうしようもない軽さ」がある。
ただし、芝1000m重賞は、新潟の直線競馬であるという点に留意しておきたい(そのため、他の距離と比べてサンプル数が少なく、データの信頼性もそれほど高くない)。
直線競馬で高齢馬の数値が低いのは仕方ない面があるのだ。直線重賞は3歳の回収率が抜群に高く、他の年齢の回収率を抑えているからである。実際、4歳馬の単勝回収率も50円に満たない。
この3歳優位は、「直線競馬はスピード比べだから、経験のない若い馬でも大丈夫」ということを意味しているわけでは、もちろんない。そのことは、これまでの連載を読んでいる読者なら、明らかだろう。経験と距離は、トップクラスにおいてはどちらかというと反比例するのだった。
3歳の成績がいいのは、単に斤量が軽いからだ。上がりが極端に速い競馬の場合(差し競馬の場合は特に)、斤量の軽い方が有利なのはこれまで何回か述べてきた。
ちょうど今週も直線競馬が2鞍行われたので、以前見た直線のポイントの復習を兼ねながら、その斤量の問題も見ていこうと思う。
だがちょっとその前に、なぜこの連載で直線競馬の解説がよく出てくるかについて、もう一度確認しておきたい。
直線競馬はJRAでもっとも短い新潟1000mコースで行われ、しかもコーナーがない。このように単純化された極端な状況を分析することは、競馬の本質を理解するのに役立つからだ。
思えば、この連載の最初は天皇賞・春に関するダンスインザダーク産駒の走りについての考察だった。この天皇賞・春の話題も、よくこの連載で登場する。
最長距離GIである天皇賞・春と最短距離の直線競馬。この2つの中に、極限において単純化された競馬の本質が隠されているからこそ、私は再三、直線競馬と天皇賞・春についても解説してきたのだ。
極限状態は物事の本質を知る手がかりとなる。だが、同じ極限でも、距離の極限についてはよく解説するが、不良馬場や超高速馬場などの馬場の極限については、私はどちらかというと議論を避けてきた。
馬場の極限状態は、すでに他の領域だからである。
たとえば、将棋を指すときに3秒しか考える時間が与えられていなければ、その人の反射的な性質や癖が出やすくなる。逆に一日近い長考が可能なら、それはそれで、その人の考え方そのものが表現されやすい。すなわち、これは距離の長短と同じである。
だが、将棋の対局時間を変える代わりに、同じ人に相撲をしてもらったらどうだろう?すでにそれは同じゲームではないので、これまでのデータから展開を予想することはできなくなる。明らかにルールが違うのだ。
取り組によって、その人のタイプ、本質は見えてくるかもしれないが、それ以上のものは分からない。
不良馬場や超高速馬場のような極端な馬場にも同じことが言える。通常の競馬とはルールというより、そのものが違うと考えていい。だから、極端な馬場については多くを語らなかったのだ。
前置きが長くなってしまった。実際のレースに戻ろう。
まず、7月30日土曜の7R。私は2番人気のサクラブライトを本命にした。直線競馬は直線鮮度が特に重要だということだったが、同馬は今回が初の直線で、しかも休み明け。鮮度充分である。
また以前見てきたS質という意味では、多頭数のダート1200mという極めてS質な条件を逃げていることから、充分あると判断できる。
対抗に選んだのは3番人気アイティクイーン。直線競馬は2度目だが、3走前なので記憶として薄いし、前走がダートだから、より身体記憶としては遠いところに直線競馬がある。
過去にダート1200mを3番手から先行しているのでS質の証明もある。さらには、その前のレースで芝1600mを後方から競馬をしている点にも注目してもらいたい。
(次週につづく)
[※注]
S(闘争心)
M3タイプの一つで、闘争心を持つ馬を表す。他馬との関係性を絶ち、自分勝手に一本調子に走りきろうという性質。Sの由来は闘争を表す“Struggle(英)”の頭文字から。
鮮度
馬の状態がフレッシュであること。休み明けや条件替わり、メンバー替わり、格上げ戦などで鮮度は上がる。また、生涯でその条件、クラスの経験が少ない馬を「生涯鮮度が高い」などと表現する。