“騎手・小牧太”のベースを作り上げた人物──それは、15歳から師事した曾和直榮師をおいてほかにいません。はたして、現在でもお付き合いがあるという師匠とは、小牧騎手にとってどんな存在だったのでしょうか。「ホンマに厳しかった」という当時を振り返りつつ、師匠への想いを語ってくれました。
──現在、関東では内田博幸さん、関西では安藤勝己さん、小牧さん、岩田さんと、地方でトップを極められた方たちが、今やすっかり中央競馬の中核ですよね。
小牧 安藤さんがこの道を切り開いてくれたおかげですね。ほとんど中央競馬には興味がなかった僕でも、安藤さんがライデンリーダーで活躍されたときは、やっぱり“うらやましいなぁ”って思いましたから。それからですもんね、中央競馬に興味を持ったのは。
──今のような制度ができる以前から「中央に行きたい」という気持ちを持っていた小牧さんにとって、安藤さんの移籍はすごく大きな出来事だったのではないですか?
小牧 ホントにそうですね。僕はついてたと思います。今はまた、頑張ってもなかなか入れないしね。僕にとって、JRAに移籍できたことが、人生で一番ついてた出来事じゃないかな。当時、曾和先生も「中央を受けられるんだったら、すぐに受けなアカン」って言ってくれましたしね。
──やはり、曾和先生のそういったひと言っていうのは、当時の小牧さんにとっては大きかったんですね。
小牧 言葉がっていうより、その存在自体がね。一昨年、交流で園田に行ったんですけど、その前に「うちの馬に乗ってくれんか」って電話があったんですよ。それまで、岩田くんはけっこう頼まれて乗ったりしてたんですけど、僕は曾和先生のところの馬には乗らなかったんです。先生も僕に頼まないしね。でも、その日は乗る人がいなかったんでしょうね(笑)。断る理由もないし、乗せてもらったんですけど、ま〜緊張しましたね。園田にいるころから、つねにドキドキしながら乗ってたんですけど、それはいまだに変わらない。もう曾和厩舎自体はありませんけど、今でも中央のGIに乗るより、曾和厩舎のグリグリ本命に乗るほうが、絶対に緊張すると思うね。
──それはよっぽどですね(笑)。怖いとは、具体的にどんなふうに…。
小牧 レースのあと、馬から下りたら、とにかく僕から離れなかった。ずっと後ろにいて、ずっと怒ってる(笑)。もう有名でしたよ。しょっちゅう怒鳴られるし、ホントに怖くてたまらなかった。レース前は、いつも緊張してガチガチでしたもん。その緊張のせいで、出遅れたり、つまずいたり(笑)。リーディングを獲り続けているときも、とにかくずーっと緊張して乗ってましたわ。でも、そのおかげで今はすごく楽です。いい意味で、ドキドキしないもんね(笑)。
──曾和先生のような方は、ほかにいらっしゃらなかった?
小牧 いない! 自分の意見を持ってる子とか、反発心の強い子だったら、あの先生にはついていかれへんかったと思う。僕はけっこう、辛抱強いからね。小牧少年は、グッと我慢して怒られてました(笑)。ただ、つらかったけど、辞めようと思ったことは一度もありません。あんなに必死になって教えてくれる先生は、ほかにいませんから。
──そんなふうに愛情を持って厳しく育てられた小牧さんから見て、最近の若手騎手の現状はどう映りますか?
小牧 逆にかわいそうだと思います。曾和先生のように怒ってくれる人もいないだろうしね。18、19の坊やが、全部自分でやっていかなアカンわけだから。プロとはいえ、子供やからね。最初から乗れる子もいれば、這い上がれん子もいるし。だから僕は、本当にいい先生にめぐり会えたと思っています。
──今でも曾和先生とは、お付き合いがあるんですか?
小牧 お正月とか父の日とかクリスマスとか、そういうイベントのときは、必ず先生の家族と僕を含めて弟子たちの家族が集まって、食事をしてます。先生に会うときは、今でも緊張しますよ。「はい、はい」って、ひたすらお話を聞いてます。僕はまた、聞き上手やねん(笑)。
──曾和先生は、今の小牧さんにとってどんな存在ですか?
小牧 なにか困ったことがあったら、真っ先に先生に相談すると思いますね。いつもそう思いつつ、今のところ、あんまり困ったことがないんですけどね(笑)。