本稿が公開される10月15日、土曜日に京都芝1800mで行われる堀川特別(3歳以上牝馬、1000万下)の「残念秋華賞」ぶりは、見事というか、凄まじい。12分の3だった秋華賞出走の抽選に漏れた9頭のうち、アフォリズム、グルヴェイグ、ドナウブルー、ハッピーグラス、ビッグスマイル、マイネジャンヌ、メーヴェと7頭も出てくるのだから。
収得賞金が900万円で、さらにくじ運がなかったがために、結果として除外になったわけだが、グルヴェイグはエアグルーヴの仔という超良血、ドナウブルーはシンザン記念で1番人気に支持された素質馬、ビッグスマイルはローズSでコンマ1秒差の4着に来た実力の持ち主で、ハッピーグラスは春にエリンコートと差のない競馬をし、そしてメーヴェはクイーンCで最速の上がりを使い、重でも良でも結果を出している。堀川特別に回った7頭のなかから秋華賞の馬券を買うつもりだった人も多いのではないか。
京都芝1600mの500万下だった堀川特別が1000万下になったのは2005年。さらに芝1800mとなって、より秋華賞に条件が近くなったのは08年のことだった。
その年の勝ち馬マルティンスタークも当時3歳で秋華賞に特別登録していた。が、この年は収得賞金1460万円のプロヴィナージュが秋華賞に18番目で出走し、1350万円のポルトフィーノが19番目で除外になった年だ。ボーダーラインが高かったため、抽選の対象にすらならなかったが、この馬にとって堀川特別は「残念秋華賞」だったに違いない。つまりマルティンスタークは、おかしな言い方になるが、「残念秋華賞馬」となったのだ。
翌09年も3歳のヒカルアマランサスが勝ったが、この年も秋華賞に出走可能なボーダーラインが高かった(900万円の出走可能枠は1頭だけ)こともあってか、この馬は秋華賞に登録していなかった。
時間は前後するが、07年の勝ち馬ニシノマナスメは秋華賞を除外されてこちらに回ってきた「残念秋華賞馬」だ。
去年は4歳のスイートマトルーフが勝ったので、「残念秋華賞馬」は誕生しなかった。今年は前記7頭のなかから「残念秋華賞馬」が現れるかどうか、注目したい。
このように、GIの「残念レース」として認知されており、
――この馬が「残念レース」ではなく本チャンに出ていたら面白かっただろうな。
と勝ち馬が思わせてくれる好レースが多いものの代表格は、「残念桜花賞」になっている忘れな草賞だろう。
こちらは桜花賞より400m長い阪神芝2000mが舞台だが、1989年からは桜花賞と同じ日に行われている(98、2000年は違う日)し、また、その施行時期や舞台からしてオークスにつながりやすいオープン特別なので、勝ち馬の顔ぶれは豪華絢爛。去年のエリンコートもそうだが、98年のエリモエクセル、94年のチョウカイキャロルなど、「残念桜花賞馬」からオークス馬になった馬もいれば、06年の2着馬ブルーメンブラットのように2年後のマイルCSを勝った馬までいる。
当たり前なのかもしれないが、「残念」とつくGIは、一生に一度しか出られない馬齢限定戦ばかりである。「残念天皇賞」も「残念有馬記念」も存在しない……と言いながら、アルゼンチン共和国杯は「残念秋天」、日経新春杯やアメリカJCCは「残念有馬記念」っぽいような気がする。まあ、それは、そのGIを目標にした馬が出走できなかった場合、オプションとして選べるようJRAが番組を組んでいるからだろう。
88年にオグリキャップが強烈な勝ち方をしたころのニュージーランドT(当時はさらに「4歳S」がついた)は、ダービーの翌週に東京芝1600mで行われ、「残念ダービー」と呼ばれていたのだが、96年にNHKマイルCができてからは4月の芝1400mとなってNHKマイルCの前哨戦となり、さらに2000年に舞台が中山の芝1600mに移ったものだから、「残念ダービー」とはほど遠いレースになった。
今「残念ダービー」としての役割を果たしているのは、やはり福島芝1800mのラジオNIKKEI賞(05年までは「ラジオたんぱ賞」)だろう。
「ダービー2着馬は出世する」とよく言われている。私がスマイルジャック贔屓だから言うわけではなく、アサクサキングスやハーツクライ、ゼンノロブロイ、シンボリクリスエス、エアシャカール、ナリタトップロード、シルクジャスティス、ダンスインザダーク、ビワハヤヒデ、ライスシャワーなど、ダービー馬に負けないビッグネームが揃っている。
では、「残念ダービー2着馬」、つまりラジオNIKKEI賞の2着馬はどうか。07年スクリーンヒーロー、06年ソングオブウインド、04年カンパニーと、こちらもすごい。現時点で過去10年の勝ち馬はGIを勝っていないのだが、2着馬からは3頭もGI勝ち馬が出ているのだ。さらにさかのぼると、94年タイキブリザード、86年ニッポーテイオーといった「残念ダービー2着馬」も、のちにGI馬になっている。
そうした傾向からも、ラジオNIKKEI賞は立派な「残念ダービー」と言える。
と、これだけ「残念レース」の話をしておきながら、今年の堀川特別を古馬が勝ったらどうしよう。まあ、そうなったら、馬券を外した私を、笑って慰めてやってほしい。