単勝1番人気のスマートファルコンが1.2倍、2番人気のトランセンドが2.4倍。出走馬12頭中単勝10倍以下はこの2頭だけで、3番人気のシビルウォーのそれは29.2倍もついた。
この数字が示しているように、11月3日のJCBクラシック(大井、ダート2000m)は、近年まれに見る「一騎討ち」となった。
私が「一騎討ち」と聞いて真っ先に思い出すのは、史上初の同レース連覇がかかっていたメジロマックイーンと、前年の二冠を圧倒的な強さで制し、休み明けの大阪杯も勝って無敗のまま駒を進めてきたトウカイテイオーが激突した92年春の天皇賞である。
「天下分け目の決戦」とも言われたそのレース。鞍上がそれぞれ「武豊」と「岡部幸雄」という超一流で、岡部氏がテイオーの調教に乗った感触を「地の果てまで伸びて行くようだ」と表現したら、武騎手が「じゃあ、こちらは天まで昇ります」と応じたことが報じられたりと、戦前から大いに盛り上がった。
競馬史に残るその名勝負を、今年のJBCクラシックはいくつかの意味で上回っていた。
ひとつは人気の集中度。「天下分け目の春天」での単勝人気は、1番人気トウカイテイオー1.5倍、2番人気メジロマックイーン2.2倍、3番人気イブキマイカグラ18.2倍。オッズを見る限りでは、「二強」と「3番目の馬」との差はJBCクラシックのほうが大きい。
もうひとつは、JBCクラシックではスタートからゴールまで二強がレースをつくり、そして結果も1-2フィニッシュだったこと。天下分け目の春天では、二強を中心に時間が流れたのは直線入口までで、メジロマックイーンが優勝したのに対し、トウカイテイオーは5着に終わった。やはり、戦前に「二強対決」と言われていたなら、マッチレースになったほうが盛り上がる。
そしてもうひとつ。これが最大のポイントなのだが、マックイーンとテイオーの対決はその一度限りで終わってしまったが、スマートファルコンとトランセンドの対決は、これから何度でも繰り返されるだろう、ということ。しかも、その舞台にはかなりの確率で来春のドバイワールドCが入ってくる。私たちは、世界最高峰の舞台で1-2フィニッシュを決めるかもしれない二強の走りを、他国のファンよりひと足早く堪能できたのだ。
さらにもうひとつは、この二強が背負うものの重さである。
かつて、ダートを主戦場とする馬は、芝で通用するスピードがないからやむなくそちらに活路を見いだした、という傾向が強く(その傾向は今でも残っているのだが)、「ダート馬」というのはある種の「蔑称」のように使われていた。ところが、春にドバイワールドCが創設されると、「ダート界の頂点イコール世界の頂点」という認識が浸透し、フェブラリーSがそこへのステップレースとして重みを増し、ジャパンCダートとともに年々ステイタスを高めてきた。
しかし、である。2010年、ドバイワールドCの舞台が、ナドアルシバ競馬場のダート2000mから新設されたメイダン競馬場のオールウェザー(AW)2000mに変更された。AWでは芝で強い馬が好走するケースが各国で見られており、日本のダート界は「世界の頂点」へのハシゴを外されたかに思われたのだが――。
この春のドバイワールドCで日本馬が1-2フィニッシュという歴史的快挙を達成し、勝ったヴィクトワールピサに最後まで食い下がったのは、ダート王のトランセンドだった。
トランセンドは、自らの力で「日本のダート界」から「世界の頂点」へのハシゴをかけ直した。そして、休み明けだった今秋の南部杯で、望んでつけたわけではない番手の競馬をするマイナスを背負いながら、ゴール前で驚くような脚を使って快勝。さらに、JBCクラシックでスマートファルコンと一騎討ちを演じ、二強が力を合わせて(というと変な表現だが)、世界の頂点へのハシゴの強度を大きく上げた。
今後、この二強がジャパンCダート、さらに東京大賞典で後ろを大きく離して叩き合う「一騎討ち」を、ドバイでの戴冠を狙う欧米のホースマンはどんな思いで見つめるのだろう。
そう考えると、ダート路線での楽しみが何倍にもふくらんでくる。