先週も解説したシンボリクリスエス産駒が揉まれ弱い体力型で中長距離向きなのに、短距離のハイペースに強いという不可思議な現象。これは競走馬の心身構造に由来している。
10、11年の高松宮杯を4着、2着し、昨年のスプリンターズSは3着。唯一今年のスプリンターズSだけ、7着を掲示板を外した。
では、今年のスプリンターズSと他の3回は何が違ったのか?
実は4着以内に走った3回は、すべて距離短縮だったのである。逆に7着に崩れた今年のスプリンターズSだけは同距離だった。
今年のスプリンターズSの前、陣営が「今回は前走1200mを使ったので、1200mの流れに慣れているから今までと違う」という旨のコメントを出していた。
これを見て、私はギョッとした。今までは狙っていたわけではなく、偶然距離短縮で1200mGIを使っていたのか…。
レースでは、ご存じの通り前走1200mを使ったので慣れる以前に飽きてしまって、あっけなく7着に惨敗。今までの1200mGIでの最低着順に沈んだのだった。
もちろん、前哨戦で同じ距離を使って連対するケースも多くある。ただ今回の場合、同距離はまずかった。
その第一の理由は、Mの基本である鮮度問題だ。
サンカルロにとって、回で古馬1200Mは生涯で4回目。しかも今年に入って、すでに1600m以下の短距離重賞だけを5戦も使われている。短期スパンでも、長期スパンでも、明らかに古馬短距離のトップクラス戦線に飽きている状態だ。
そういう馬に、中2週と間隔の詰まった前哨戦である同距離1200mを使うというのは、自殺行為である。飽きを助長させるだけだ。
それでもタイプによって好走することはあるが、今回はさらにふたつ目の理由があった。シンボリクリスエス産駒のタイプ問題である。
本質的にシンボリクリスエス産駒は、激しく揉まれることを嫌がる血統だ。
しかし、ハイラップ指数は低いもののSが付いているように、激しく揉まれる短距離のハイペースにある程度耐えられる肉体的な構造はある。精神的に揉まれたくなくても、ダートや中長距離を走れる体力的タフさがあり、それで肉体的にはハイペースをしのげるのだ。
そこに精神的な「見下ろし」と「鮮度」を加えることで、短距離のハイペースを耐える下地を完成させることが出来る。
「見下ろし」とは、前走長い距離の強い相手と戦うことで、1200m専用馬を楽な相手と見て、精神的優位性を保てるという現象だ。
1400m、1600mには、マイル路線の猛者が集まっている。現行のJRAでは、2400mまでは距離の長いレースの方が格が上だという暗黙の了解がある。それが日本競馬のシステムそのものを作っているので、自然と短縮によって相手を見下せるというわけだ。
そもそもシンボリクリスエス産駒は体力的にはタフなので、精神的に優位に立てさえすれば、消耗戦ではかなりのパフォーマンスが出せる。だから見下ろしは、より高い効果を期待できる。
それに加えて、ストレスを軽減できる「鮮度」も、短縮によって得るわけだ。
そのため、短縮時にはハイラップ指数にSが付いている力を存分に活かして好走し、同距離ではあえなく流れに飲まれて投げ出してしまったのである。
では、今年の安田記念でのストロングリターンはどういうことだろう。前走の京王杯スプリングCは1400mで距離延長だったのだが…?延長だったわけだが。
(来週につづく)
※Sが付いている
ハイラップ指数とは、芝の速い流れに対応できかを数値化したもので平均は50。末尾にSがつと短距離のハイペースに強く、Lなら中距離のハイペースに強いことを表している。
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