欧米に追いつき追い越すことを目標に創設されたジャパンCも、今年で31回目を迎える。レースの回数は「数え年」なので、人間なら30歳。立派な大人である。
が、30歳というのは実に微妙なお年ごろで、小泉進次郎衆議院議員みたいな若々しいイケメンもいれば、腹の出たオッサンもいる。
私は小泉議員と話したことはないが、兄でタレントの小泉孝太郎さんとは、武豊騎手が2002年に落馬負傷したときの入院先で会ったことがある。当時、父の小泉純一郎氏は首相で、孝太郎さんは確かビールのCMに出ていたりと人気絶頂期だったのだが、とても爽やかで、礼儀正しい人だったので驚いた。親の育て方がいいのだろう、と、話しながら思った。武騎手の病室に、孝太郎さんと私につづいて、とある馬主が見舞いに来た。私は途中で失礼したのだが、孝太郎さんは、初対面の馬主が「あなたのお父さんの政策の問題点は……」と始めた話に、深夜まで「はい」としっかり頷きながら耳を傾けていたという。その弟なのだから、どんなキャラクターなのか想像がつく。
顔も頭も性格もよくて、社会的地位もしっかりして稼ぎもいい。パッと見、完璧なように思われるが、こういう男にも必ず欠点はあるはずで……いや、今回はこういう話をするのではなかった。
政治家としての評価は、評価する人の支持政党にもよるだろうから様々だと思うが、
――こんなにカッコいい30歳の男が日本にもいるんだよ。
と外国人に言えるひとりであることは間違いないだろう。
ジャパンCも同様に、
――こんなに素晴らしい31回目のGIが日本にもあるんだよ。
と世界に胸を張れるレースになったと言えるだろうか。そう言えるレースを、ブエナビスタをはじめとする日本馬にしてほしいと思う。
前置きが長くなった。
日本のホースマンは長らく「欧米に追いつき追い越す」べく馬づくりをしてきたわけだが、気づかないうちに、日本のほうが進んでしまっている部分もあるのではないか。そう角居勝彦調教師に問うと、次のような答えが返ってきた。
「閉鎖されたひとつの厩舎のなかで何百頭という馬を管理しているヨーロッパのような形だと、どういう工夫をして結果を出しているのかを、ほかの調教師が知るのは難しい。それに対して、日本のような内厩制度で、同じトレーニングセンターのなかに違う厩舎が入った状態で調教をしていると、他厩舎のノウハウをどんどん吸収して、速いペースで進むことができますよね」
なるほど、と頷きながら、ひとつの具体例を思い浮かべた。
次の写真を見てほしい。雨上がりだったため、全体に暗いのが残念だが、栗東トレセンの須貝尚介厩舎の脇を通ると、この厩舎の前庭一面に芝が張られていて、とても目立つ。
![栗東・須貝尚介厩舎](https://cdn.netkeiba.com/img.news/style/netkeiba.ja/data/shimada/11112611.jpg)
栗東・須貝尚介厩舎 つづいて、次の写真。これは、美浦トレセンの大竹正博厩舎である。ひと月近く前に撮ったものだが、左奥に木が植わっており、その手前で芝を養生している。
![美浦・大竹正博厩舎](https://cdn.netkeiba.com/img.news/style/netkeiba.ja/data/shimada/11112612.jpg)
美浦・大竹正博厩舎 なんのアポも入れていなかったのだが、編集者と一緒に厩舎の事務所スペースを覗くと、大竹調教師が出てきてくれた。
「栗東の須貝厩舎は、芝を植えたころから成績がよくなったでしょう。だから、うちでもやってみることにしたんです。できれば、隣の厩舎の白い壁が草や木で見えなくなるようにしたいですね。白で落ちつくのは人間だけで、馬はやっぱり緑に囲まれているほうが落ちつくでしょうから」
そう話す彼の手には、インカムがあった。コース上の乗り手に指示を出すためのもので、栗東のほうが普及しているが、美浦でも導入する厩舎が増えてきているという。
さらに馬房のほうに案内されて目を見張った。厩舎の壁に、自分たちが調教するシーンなどを撮影したパネルが綺麗にはめ込まれていて、とてもお洒落なのだ。
![大竹厩舎の壁にはパネルが](https://cdn.netkeiba.com/img.news/style/netkeiba.ja/data/shimada/11112613.jpg)
大竹厩舎の壁にはパネルが つい先日この新しい厩舎に移転してきたばかりなのだが、これは大竹師がずっとあたためてきたアイデアである。発泡スチロールのような素材に野外広告で使われるのと同じインクでプリントされているので、退色しづらいのだという。
「今後、カメラマンの人たちは、こうした仕事も増えてくるんじゃないですか」
と笑顔を見せる彼と話しながら、
――こういう人がリーディングを獲ってくれるといいな。
とつくづく思った。
こういう環境にいるとスタッフのモチベーションが高まるだろうし、訪れた馬主も、もっと馬を預けたいと思うに違いない。
一事が万事で、これらの写真から見えるような細やかで丁寧な気配りが、馬づくり全体に通底している。
いいと思ったことを積極的に取り入れ、やれることはすべてやる、という姿勢の人に結果を出してほしいし、そういう世界であってほしいとも思う。
大竹厩舎は11月20日終了時でリーディング33位の23勝、通算60勝。年齢は3つ上だが、調教師としては同期の須貝厩舎は27位の26勝、通算61勝と、高いレベルでいい勝負をしている。
日本ならではのよさを見せてくれている開業3年目の大竹厩舎と須貝厩舎。今後がますます楽しみである。