どうやら私はかなりセコいようだ。これまで何度か言われたことがあるのだが、それが欠点だと思ったことがないので、直そうと思ったこともない。
ということで、セコさがバレてしまった直近のエピソードを、ひとつ。
自著『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』がJRA賞馬事文化賞を受賞したので、版元の白夜書房が、受賞作であることを記した新たな帯をつくってくれた。長吉さんと、推薦文を寄せてくれた武豊騎手の写真を入れたままデザインし直し、背から見た部分はゴールドというゴージャスさである。しかもそれを1月23日の授賞式に間に合わせ、会場にディスプレイするという念の入れようだった。
![JRA賞授賞式後に行われたパーティ会場に展示された、新たな帯付きの受賞作](https://cdn.netkeiba.com/img.news/style/netkeiba.ja/data/shimada/12020411.jpg)
JRA賞授賞式後に行われたパーティ会場に展示された、
新たな帯付きの受賞作 文学賞などの受賞作は、スピード優先でつくられた一色の簡単な帯が、元の帯の上から巻かれる……というパターンが普通だと思っていたので驚いた。もちろん嬉しかったが、半面、
――この立派な帯をつくる金を、ドーンと重版をかけるリスクぶんに回してくれてもよかったのになあ。
と著者としては思った。
それが私のセコさの本領ではない。
私のバランス感覚からすると、この新たな帯は、本の刷り部数に対して異例と言えるほど豪華に映った。
そこで私は、白夜書房の担当編集者の岸端薫子さんに言った。
「受賞前に買ってくれた読者のためにも、ぼくがnetkeiba.comで連載しているコラムで、新しい帯をプレゼントしたいんですけど、いいですか?」
「ハイ、営業に確かめておきます」
と応えた岸端さんから、数日後電話があった。
「帯のプレゼント、提供できるそうです」
「そりゃよかった。何本ぐらいもらえそうですかね」
と私が訊くと、
「逆に、島田さんのご希望の本数は、どのくらいですか?」
と問われたので、
「5本もあればいいんじゃないですか。目立たないところにこっそりサインしてプレゼントします」
「わかりました」
これで一件落着と思っていたら、その夜、岸端さんからまた電話が来た。
「帯の件なんですが、上司も後輩も、5本のプレゼントはセコすぎると言うんです。これがもし100本プレゼントするのなら、当たった人のなかでまだ買っていない50人ぐらいが本を買おうと思ってくれるかもしれませんが、5本だと、ひとりかふたりしか買ってくれないんじゃないか、と。私も気づかなくてすみません」
「い、いや」
「ですから、新しい帯付きの本を5冊プレゼントさせてもらえるよう、netkeiba.comさんに頼んでいただけますか?」
「了解、そうしましょう」
「いやあ、危なかったですね。このまま帯だけを5本プレゼントしていたら、島田さんがセコいと思われるところでした」
岸端さん、恥ずかしいから、そんなに褒めないでください。
ということで、新帯と私のサイン付きの『消えた天才騎手』を本稿の読者5名の方にプレゼントすることにした。実は、この話をnetkeiba.comの編集者に伝えたのは本稿の入稿直前で、プレゼント応募フォーム作成には時間がかかるらしく、応募受付は来週の本稿でさせてもらうことになった。あしからずご了承ください。
さて、先週日曜日のスポニチで、武豊騎手が自身のコラムに私のことを書いてくれていた。馬事文化賞の賞金100万円で奢ってくれと書いてあったので、せっかくだから、何かネタになるものを考えたい。
もう15年ほど前のことになるが、都内で財布を落とした武騎手に、直木賞作家の伊集院静氏が現金を貸したことがあった。
「あれだけ稼ぐ豊に金を貸した」
と伊集院氏は(氏も収入はものすごいのだが)それをしばらく話の種にし、武騎手に返してもらったあとも、
「そういえば、あのときの金、返してもらったっけ?」
と繰り返し、周囲を笑わせていた。
私も何か面白いことができたら、またここで報告したいと思う。
本稿がアップされる土曜日の夕刻、稀勢の里の大関昇進披露があり、翌日は、贔屓のスマイルジャックが東京新聞杯に出走する。火曜日に厩舎に行ったとき、スマイルの顔を撫でながら「頑張れよ」と言ってきた。こういうメッセージは、伝わるかどうかより、自分が発したことを確かに実感できるかどうかが大切なのだと、スマイルの体温を感じながら思った。同じことを繰り返すために、日曜日、東京競馬場のゴール前でスマイルの名を叫びたい。
▼来週公開の当コラムで、島田明宏氏のJRA賞馬事文化賞受賞作『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』を5名様にプレゼントいたします。お楽しみに!